PCオーディオの都市伝説(3)~「USBケーブルで音が変わる(1)」

いよいよ、都市伝説の第3弾、「USBケーブルで音が変わる!」です。
実は、LANケーブルと違ってUSBケーブルに関しては突っ込みどころが満載なので私の手には余りそうでパスしようかと思ったのですが、現実に百花繚乱なのはこのUSBケーブルですから、力の及ぶ範囲で話題を提供しようかと思います。

しかしながら、いわゆるオーディオ用と銘打ってUSBケーブルが発売されたのが何時だったのかと思い出してみると、私自身が「オーディオグレードUSBケーブル到着!!」という記事を2009年の7月に書いていることを発見しました。
「早速にケーブルを交換して音出しをしてみましたが、これは予想通りに大幅な変化です。以前、モンスターケーブルを使ったときもはっきりと一線を画すほどの効果があったので期待はしていました。音の変化はひと言で言えば、音の芯がしっかりして腰が落ちた感じになり、明らかに情報量がグッと増えていることが分かります。」
なんて書いていますね。

しかし、この当時の反応は「オカルトだ!!」というのが多くて、「こんな事を書いていたら、せっかくのサイトが荒れちゃうよ」という忠告などもいただいたほどです。わずか2年ほど前のことなのですが、「デジタルでデータをやりとりする世界でケーブルを変えたくらいで音が変わるはずはない」という「確固たる信念」が一般的だったようです。
しかし、その後の動向は「オカルトだ!!」という批判などは吹っ飛ばしてしまうほどの勢いで、ステレオ誌の4月号では「USB/LANケーブルでこんなに音が変わる」という特集が組まれるほどになっています。
と言うことで、「USBケーブルで音が変わる」という都市伝説は5つ星で評価すれば、4つ星もしくは4.5星は獲得できるくらいに認知度が上がっていると言えそうです。

転送の信頼性を保障しない「アイソクロナス転送」

まずは、USBケーブルの場合はデータ転送の過程で必ずしも信頼性が100%保障されていないという事をおさえておく必要があります。ただし、このあたりの説明は難しいので間違っている部分があるかもしれませんので、そのときは遠慮なくな突っ込んでください。<(^ー^ι) まずは、USB接続においてもやりとりされるデータはパケットに分割されて送信されます。(あまり正確な言い方ではありませんが・・・)このあたりはLANケーブルと似通っているのですが、転送のされ方が何通りもあるのが悩ましいところです。 まずは、音楽再生におけるUSB規格によるデータ転送は基本的に「バルク転送」か「アイソクロナス転送」かのどちらかです。これ以外にも「コントロール転送」と「インタラプト転送」という規格もありますが、前者はセットアップや設定パラメータ転送用に使われるものですし、後者はキーボードやマウスなどに使われるものなので音楽再生には関係ありません。 音楽再生においては一般的に「アイソクロナス転送」が使われます。「パルク転送」は外付けのHDやプリンタなどを接続するときに使われるものなのですが、最近はこの方式をとるUSB-DACも登場してきています。 この二つの転送規格の違いをまとめておくと以下のようになります。 「バルク転送」
USB転送における基本的な規格で、送り主が「送ってもいいですか?」という問いかけをして、それに対して受け取り主から「大丈夫ですよ!」という返事が返ってきたらデータを送ります。この時に、パケットについている荷札を元に身体検査をして、転送に失敗したパケットがあると再送を要求します。
データの信頼性は非常に高いのですが、伝送路の負荷が高いと「待ってくれ」という返事が返ってくるのでデータの転送に時間がかかり遅れが生じることがあります。

「アイソクロナス転送」
この転送の仕方は「とにかくエラーがあっても良いから一定時間内に一定量のデータを送受信してくれ!」というものです。ですから、送り主と受け取り主の間でやりとりする部分(ハンドシェイクの部分)が省略されています。
そのため、音声や動画の再生のように途切れ途切れになっては困るデータの転送に用いられるのですが、データの転送に失敗しても再送されないので信頼性には欠けます。

なお、どちらの方式でデータをやりとりするかは、受け取り主(「USB-DAC」等)の規格によって決まります。
簡略に説明すれば、大部分の「USB-DAC」は「USB Audio Class」と呼ばれるドライバー(OSに標準で実装されている)で動作しています。この「USB Audio Class」は「アイソクロナス転送」を採用していますので、一般的に「音楽再生においてはアイソクロナス転送が使われている」と言うことになるのです。

これに対して、一部の「USB-DAC」は独自のドライバーを開発して「バルク転送」でデータのやりとりをさせています。有名なところでは、M2TECHの「hiface」や「hiface Evo」などです。ご存じのようにその高音質は評判になっているのですが、WindowsやMac専用の独自ドライバを使っているのでLinuxでは使えません。

なお、このような転送の規格とは別に「アシンクロナスモード」というものがあります。これについてはあとで触れたいと思うのですが、WindowsPCにおいては、この「アシンクロナスモード」に対応させるためにドライバーを追加する必要がある時があります。ですから、別途ドライバーを追加したからと言って必ずしもパルク転送に対応しているわけではないときがありますから、そこは注意が必要です。

以上、きわめてザックリとした説明で申し訳ないのですが、LANケーブル(TCP/IPプロトコル)の時と違って、USBケーブル(アイソクロナス転送)の場合は理論的にデータ転送の信頼性を保障しないという根本的な違いがあります。このあたりが「LANケーブルとUSBケーブルでは素性に大きな違いがありますから、やはり分けて検討した方がいいでしょう。」と述べた所以です。

導体の素材の違いと音質の変化について

「アイソクロナス転送」においては転送されるデータの信頼性は保障されていません。
ですから、できる限りスムーズにデータが流れるようにケーブルを改良すれば音がよくなるのではないかというのが一番最初のトライだったようです。
ちなみに、「スムーズにデータが流れる」というのは電気抵抗を下げると言うことのようで、ステレオ誌の特集を見てみると、導体の素材に「高級」なものを使用していることをアピールしているケーブルが数多く存在します。

まずは、「LC-OFC」や「PCOCC」等と呼ばれる高級な銅素材を用いたもの。

フルテックは古河電工お得意の「PCOCC」ケーブルを販売する会社からスタートしただけあって、USBケーブルも「PCOCC」や「LC-OFC」を改良した(?)「α-OFC」や「α-OCC」なるものを使うことで存在をアピールしています。(ちなみに、私が現在メインで使っているケーブルはこの会社の「α-OCC」を使ったものです。)

笑えるのはオーディオクエストという会社のケーブルです。この会社のケーブルは「LC-OFC」に銀メッキを施しているらしいのですが、この銀メッキの量によって値段が変わっていくのです。「LC-OFC」だけだと0.75m当たり2940円ですが、銀が1.25%で6300円、5%で12600円、10%で29400円、そして100%銀単線を使った最高級品だと58800円となっていて、まるで、貴金属店です。

次に、「LC-OFC」や「PCOCC」はいかに純度が高くても所詮は「銅」なので、金や銀を使ってさらなる高級感を演出したもの。

これは、先に挙げた100%銀単線を使ったオーディオクエストという会社の最高級ケーブルなどが当てはまるのですが、これ以外にも金と銀の合金を使ったというオーグラインなる会社のケーブルもあります。オーグラインにはこの合金にさらにプラチナを加えた「オーグライン+プラチナ」というものもあるそうです。

ただ、これらの会社の名誉のために付けくわえておきますと、たとえばオーディオクエストという会社は銀の量り売りをしているだけでなく、「DBS」という常人には理解しがたい技術で音質改善を図っていたりしますので、決して素材の高級さだけでアピールしているわけではないことは付けくわえておきます。他社のUSBケーブルも同様で、素材以外の面でも様々な改善を行っていることをアピールしています。
しかし、音質改善のポイントとしてそのような導体の素材について言及していることは事実ですので、とりあえずはその点に絞って俎上にあげたいと思います。

この場合問題となるのは2点でしょう。
一つめは、「アイソクロナス転送」の信頼性が現実問題としてどれほど疑わしいのかと言う事です。
二つめはケーブルの素材が「アイソクロナス転送」の問題を解決する上でどの程度貢献するのかということです。

まずは、「アイソクロナス転送」の信頼性ですが、現実問題として転送にエラーが生じたときはどのような症状が出るのでしょうか。
普通に考えれば、データはアナログではなくてデジタルですから、エラーとなった部分はバッサリとデータが欠落するはずです。ですから、その結果として現れる症状は微妙な音質の劣化という「アナログな変化」ではなくて、エラーになった部分は再生不可となるような「デジタルな変化」、つまりは音が切れるというような症状が出るものと思われます。
それがいわゆるブチブチノイズと同じものなのかどうかは私の知識では判断しかねます。
<追記>
その後、あちこちのサイトを探ってみると、やはりデータ化けによって生じるのは、「何となく音が悪くなっている」というレベルも存在するようです。そうなると、「アイソクロナス転送」による音質の劣化を感覚的に見つけ出すのはかなり難しくなりますね。
<追記終わり>

しかし、長年PCオーディオに取り組んできた経験から言って、「アイソクロナス転送」でエラーが出るのは、スタートアップで使いもしないソフトがゾロゾロと起動するようになっているPCで、ネットつないでゲームでもしながら音楽を流しているというような「過酷」な環境でもなければ発生しないような気がします。
理論的根拠は明確には示せませんが、「voyage mpd starter kit」のような音楽再生に特化したシステムの場合は伝送路に負荷がかかって転送にエラーが出ると言うことは考えにくいと思われます。WindowsPCでもしっかりとチューニングをしてシステム全体の負荷を下げれば、同様に「アイソクロナス転送」に伴う信頼性の問題は回避できそうな気がします。

何故ならば、「アイソクロナス転送」に伴う信頼性の問題は基本的には送り主であるホスト(一般的にはPC)と、受け取り主であるノード(一般的にはUSB-DAC)の間で構成されるシステム全体の安定性こそが課題だからです。
一般的なPCでは様々なUSB機器がPCに接続されていて、それらが何の問題もなく同時に動作しています。ユーザーから見れば当たり前のことですが、それらをコントロールしているホスト(PC)としては、それら複数のUSB機器を平行して動作させるために、お互いが時間をシェアすることで現実には一本しかない伝送経路があたかも何本もあるかのようにして動作させています。
そんな綱渡りのようなやりくりの中に「アイソクロナス転送」が割り込んでくると、事態はさらに悪化することは容易に察せられます。
何故ならば、「アイソクロナス転送」は送り主と受け取り主の間でやりとりを一切しないで一方的にでエータを送り続けるからです。ですから、それ以外の機器が「バルク転送」で頻繁にデータのやりとりをしていると、結果として「アイソクロナス転送」による転送にも問題が出てくるように思います。たとえば、アップルのサイトなどには「高帯域の機器やアイソクロナス (isochronous) 転送に対応した機器を、1 つの USB (Universal Serial Bus) にそれぞれ 2 台接続することはできません。」なんて書いてありますね。

ですから、ケーブルの素材に銀や金やプラチナを使うお金があるくらいなら、「voyage mpd starter kit」のようなシンプルなシステムを導入して、マウスもキーボードもディスプレイもつながず、USB-DACだけを接続するようにするのがベストな対策だと断言できます。
逆に、USBケーブルの導体の素材を改善して電気抵抗を下げたからと言ってシステム全体の安定性を向上させるような力は無いに等しいはずです。ある会社は「USB2.0での信号伝送速度は、最大で毎秒480メガビットに達するため、音声データの致命的な破損を防ぐには、ケーブルの高度な構造と素材の確保が欠かせません。」などと書いていますが、どう考えても無意味なように思われます。

と言うことで、「アイソクロナス転送」に伴う信頼性の問題を改善するためにUSBケーブルの素材を高級化することは意味がないと断言していいのではないかと思います。
(精神衛生上の問題として、せめては「OFC」程度の素材を使ってもらっていればいいのではないかと思います。)

ただし、USBケーブルをめぐる問題は「アイソクロナス転送」だけではありません。これ以外にも、電源とデータが共存している問題や、「アシンクロナスモード」に関わる問題、そして本丸とも言うべき外来ノイズに関わる問題など、課題は山盛りです。
今回は、ここまででもかなり長くなってきましたので、それらの問題は次回に回したいと思います。


5 comments for “PCオーディオの都市伝説(3)~「USBケーブルで音が変わる(1)」

  1. yappari
    2011年9月21日 at 10:46 PM

    以前から拝見させていただいていますが、皆さんの投稿を拝見すると、PCオーディオも全盛期かなと、でも一部のマニアの世界なのかなぁろ思ってしまいます。
    何百万もするシステムを組んでいますとさらりと言ってしまったり、難解な電気の知識を振り回してみたり。とても、純粋に音楽を良い音で聴きたいという普通の音楽ファン(クラッシクだろうとAKBだろうと)にはとっつきにくい世界を自分たちで構築し、その中ではしゃいでるとしか思えません。
    数十年前にたどった轍を踏むことになるのかな、と思う次第です。この掲示板での議論自体が、「ふつーの人」を締め出しているのは確実です。
    Blue Sky Lebel・・・とってもすばらしい理念です。それだけにマニアックなサイトになりつつあることが残念です。

  2. 2011年9月23日 at 8:51 PM

    転送モードについてはよくわかりませんが、少なくとも480MB/sな信号を扱う上で大事なのは、(直流)抵抗値ではなくインピーダンスマッチングだと思います。

    電源、LANケーブルでの議論と同じく、結局はアナログ的な素質が最終的な音に影響するのではないでしょうか?

  3. ユング君
    2011年9月24日 at 3:25 PM

    >少なくとも480MB/sな信号を扱う上で大事なのは、(直流)抵抗値ではなくインピーダンスマッチングだと思います。

    なるほど、少し調べてみますと、D+/D-の信号ライン上にインピーダンス整合のための抵抗を置くことはUSBの規格としても認められているみたいですね。そう言う意味で、導体の素材をあれこれ変えてみることは多少は意味があるのかもしれません。
    ただ、それがどの程度「意味があるのか」がどの会社の製品を見てもクリアではないですね。とにかく「高級な素材」を使っているから高価があるんだ・・・と言うメッセージしか伝わってきません。

    >電源、LANケーブルでの議論と同じく、結局はアナログ的な素質が最終的な音に影響するのではないでしょうか?

    デジタル由来のノイズをいかにしてアナログ系に持ち込まないかが最も重要なポイントであるようですね。そう言う意味でも、次回に取り上げた電源系とデータ系を切り離す試みは大きな意味があると思います。

  4. ppppp
    2013年1月29日 at 10:31 PM

    デジタルでもこれだけノイズの発生原因があっていろいろ悪さを
    するようです。当然回路にも影響があります
    http://www.cybernet.co.jp/eda/mailmag/minami_study/15/tech.html

  5. YAMADE電気
    2014年5月12日 at 1:33 PM

    配線の材質の違いで音が変わるのは当たり前です、長さに比例して太さに反比例する。
    音の味付けとしてUSBケーブル(←余りやらないけどノイズ乗ればやる)とかラインケーブル等を交換して音質の違いで自分好みにする。

    音の質が変わるのであって、音が良く成るわけじゃ無い、勘違いしている人は、高いケーブル使うと音が良くなると思ってる、高かったスピーカーちゃんにいい電気、良いコードで、いっぱい送ってあげようみたいな

    USBDACの場合、デジタルからアナログに変換して、アナログをアンプ部分で増幅するとき影響してきます、アンプ内部の真空管、トランジスター、にバイアスをかける(一定の電圧をかけて置く)、ここの部分で何mボルトと言う小さい電圧が掛けられてる物も有るので、そこの電気にノイズが乗っかって来るとブーンとかキィー等症状が出る場合があります、もちろん電位差でも。

    流れてくる電気の質や量、ノイズ(最近の流行はコモンモード、ノーマルモード)等によって相性が出てるんじゃないかなと私的には理解してます。間違ってたら御免なさい。

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