人間の可聴帯域について

全く別の場所なのですが、mさんよりとても興味深い投稿を頂きました。
投稿を頂いたのは、フルトヴェングラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団による「トリスタンとイゾルデ」へのコメントなのですが、どう考えても似つかわしくない場所なので、しかしながら「お蔵入り」にするにはあまりにも惜しいので、こちらの方で紹介することにしました。

まずは、投稿いただいた内容を一切手を加えずに紹介します。

「二年前に投稿してから、どうしてLPレコードの音が心地よいのか?ずっと気になっており、色々調べてきました。この場に二度も投稿するのはユングさんそして皆様からでしゃばりすぎとお叱りけるのではと躊躇しておりましたが、思いきって投稿する事にいたしました。最近の研究を調べてきて、ひとつの結論めいたものが得られたように思われたからです。

LPレコードの周波特性は数十ヘルツから三十数キロヘルツとの事です。ということはレコードプレイヤーにレコードをかけてスピーカーから出てくる音にはいわゆる超音波が含まれている事になります。 
人間の能力で聞き取ることが出来る音は20ヘルツから20キロヘルツ(20000ヘルツ)程度までとされています。 CDが20キロヘルツまでの音しか入っていない理由も、人に聴こえない周波数の音を入れても無駄との判断があったためと推察されます。

昨2012年の日本耳鼻咽喉科学会の宿題報告(その道の第一人者に学会が要望して講演をしていただくのが宿題報告です。)で奈良県立医大耳鼻咽喉科教授が超音波を利用した新補聴器システムについて報告されました。(実は私は耳鼻科医でして、毎年学会には参加しております。)この研究の本来の目的は、重度難聴で通常の補聴器は役にたたない患者さんの為に超音波を使った補聴器を開発しようというものです。

研究の前提としてそもそも人間が超音波を聞くことができるかという事が問題になります。 これについて、重度難聴の方々に協力していただき、音や超音波を聞かせて脳に起こる反応を脳磁波などの手法を用いて調べたとの事です。 この研究で非常に興味深い結果が得られました。私もその結果にびっくりしましたし、いろいろな面で考えさせられました。
人は超音波を聞いているようです。
もう少し詳しく説明します。たとえば人間の右耳から入った音は内耳で電気信号へ変換され、聴神経を通って脳幹部へ到達しそれから左脳幹部を上昇し、最終的には大脳皮質の左の聴覚領というところへ到達し、音として認識されます。 重度難聴者は、健常者と違って、我々が普段聞いている周波数帯の音を聞かせても脳に反応は見られないのです。 ところが重度難聴者に、超音波を聞かせたところ脳に反応が見られる、という結果が得られたのです! 
人間の脳は超音波を聞いて脳磁界反応が見られる、つまり一種の脳の興奮をおこしていたわけです。

LPレコードの周波数特性が超音波を含むとすれば、LPの心地よさは超音波によりもたされた脳の興奮に起因しているのかもしれません。今後新しい音楽を録音再生する媒体を開発する場合は超音波成分をいれる方が販売面?では有利ということになる可能性も有りますね。

もちろん、この奈良医大の方々の研究は、重度難聴者の方々への超音波補聴器を開発しようというのが目的です。 その研究へ敬意を表したいと思います。」

専門的な部分もあるので必ずしも理解できたわけではないのですが、どうやら人間の聴覚というのは「聞こえる、聞こえない」という単純なレベルだけで切り分けられる代物ではないようです。
もちろん、今さらこういう理由付けがなくても20キロヘルツ以上の領域が大きな意味を持っていることをオーディオマニアは経験的に「知って」います。しかしながら、その「経験則」がこういう形で説明されていくことには大きな意味があると思います。

mさん、貴重な情報ありがとうございます。


7 comments for “人間の可聴帯域について

  1. やもり
    2013年5月22日 at 9:32 AM

    興味深い情報、ありがとうございます。

    LPレコードの方が音が良く感じる場合がある点について、私は別の視点もあると思います。
    つまり、「人間の耳にとって心地良くない音についても、CDは忠実に再生していしまうのに対して、LPレコードではうまい具合に消えている可能性があるのでは」という点です。
    というのも、モノラル時代の音が心地良く感じることもある点については、20キロヘルツ以上の領域の再現性で話をするのは、さすがに苦しいと思うからです。

    LPレコードは20キロヘルツ以上の情報も入っているとのことですが、肝心の20キロヘルツ以下の領域は、CDの方が忠実に再現されているでしょう。
    私はLPレコードの優位性を全く否定しておりませんが、20キロヘルツ以上の再現性を根拠にするのには、かなり否定的です。「再現しないことの効用」という視点からの議論もあって良いと思います。

    以上、オーディオにはド素人の見解ですが、こんな見方もありかな、と思います。
    失礼しました。

    追記:ユング様、いつも素晴らしいアップをありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。

  2. old boy
    2013年5月23日 at 9:52 AM

    確かにやもりさんの意見に同感します。
    超音波を感じる以前に、LPはCDに比べて単純に心地よく感じます。
    最近のbugheadとか云うソフトではLP以上に心地よく聞こえる場合があり、
    きっと不快な音を消して、心地よく感じる音を強調した結果だと思います。
    人間の耳はちょっとした違いで良くも悪くも感じるのでしょう。

  3. レッドドラゴン
    2013年5月27日 at 3:11 PM

    聴こえないけど感じる事ができる難聴者はたくさんいらっしゃいます。
    感じる事のみで音楽を楽しむにはそれなりに訓練が必要ですが、不可能な事ではありません。音が波である以上、我々の感覚器官がそれを受け入れられれば、それはその人にとっての音楽になるようです。

    ヴェートーヴェンに限らず、フルトヴェングラーやメシアンが難聴だったというのは有名な話で、小さな狂いはやはり周波数及び時間分解能の低下がもたらした結果だと思います。mさんはそこの関連性から書き込まれたのだと思います。

    高名な音楽家が晩年、グダグダになる姿は残酷なものですが、晩年のヴェートーヴェンのように完全に空想の世界だけで組み上げた音楽には迷いがありませんね。

  4. bowo
    2013年5月29日 at 7:55 PM

    はじめまして。いつもMPD関係の記事を楽しく読ませていただいてます。

    可聴域外の音の効果についてはハイパーソニックエフェクトなどの論文で科学的にも証明されているようですね。
    スーパーツィーター買わなければいけなかったりと費用はかかるようですが、一度体験してみたいものです。

  5. n'Guin
    2013年6月30日 at 8:59 AM

    いつもこのサイトを参考にさせていただいております。

    超音波で、MEG に変化がみられたという報告なのだと思いますが、その解釈には慎重であってほしいと思います。 MEG は時間分解能に優れる利点がある一方で、結果が計算上得られた仮想空間上の活動性を意味しますので、fMRI や PET と比較して、解釈に大きな制約があります。 もしも、MEG でしか捉えられていない変化なのであれば、「人は超音波を聞いているようです」とはとてもいえません。 計算結果上得られた仮想結果で、artifact と解釈すべき結果です。

    さらにいうと、聞くのではなく他の感覚器を通じて感じている可能性もあります。 超低音が振動として捉えられるのと同じです。

    私は耳鼻科医ではないので、耳鼻科学会の研究結果を知る機会がありません。 今後も最新の研究成果のご提示を楽しみにしております。

  6. mituo
    2013年7月6日 at 8:42 PM

    私の場合、正弦波は13KHz以上はかなり苦しいのですが、矩形波は20KHzでも余裕で認識できます。
    最初はパソコンのスピーカーがボロでそうなるのかと思いましたが、自分の装置でも同じでした。
    パルスとかノコギリ波三角波とかも認識できました。三角波が一番聞こえにくかったです。
    使ったソフトはWG150です。
    10KHzの正弦波と、矩形波の音色の違いが認識できれば20KHzも一応認識できているのかどうか。
    難しいことは判りませんが....

  7. nakamoto
    2013年7月28日 at 5:25 AM

    私は、オーディオ機器について全く詳しくはないです。ただ若いころは必要にせまられ、かなり高価なオーディオを所有していました。LPからCDに代わったとき、楽器の位置がぶれないことに喜びを感じた反面、音の艶やかさが極端に少なくなった事に落胆しました。原因は分かっていました。デジタルの宿命なのでしょうが、どこかで音を制限しなくてはならない、そして科学的判断で制作しなくてはならない。LPからCDへの変化は多くの富を私たちにもたらした反面、悲しいほど乾いた音しか提供してくれなくなりました。時代はLPにすがりつけない状況でしたので諦めました。ユング君さんのサイトから、この問題が解決へ向かう何かが始まれば幸いと思っています。ちなみに自慢話になってしまいますが、ビートルズのサージェントペッパーのLPアルバムの最後に、犬へのメッセージとして人間には聞こえない超高音が収録されていますが、私は聞き取れました。

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