前回は「もう少し気楽に遊んでみよう」と言うことで、「しばらくは横へ広げる方向で色々遊んでみたいと思いますので、そのお遊びの報告などを少しずつやれれば楽しいかな?等と思っている次第です。」と書きました。当然のことながら頭の中には「横へ広げる方向」というのがいくつかはイメージされていました。
そう言うイメージの中の一つがこれでした。
[掟破りのイコライザー導入!! BEHRINGER Ultra high precision DEQ2496!!]
はい、イコライザーの導入だったのです。
オーディオを突き詰めていくと、最後はリスニングルームの問題に突き当たります。
どんなに高価な機器をそろえてもスピーカーから出た音は最終的に部屋の影響を受けざるを得ません。
天井、床、壁、窓、ドア、さらにはそこに設置された家具などによって音は反射・吸収されます。反射された音はフラッターエコーという嫌な共鳴を引き起こすことはよく知られています。また、反射された音は反射した素材の特性によって特有のカラーリングが施されてしまうこともよく知られています。
さらに言えば、どんなに閑静な住宅地であっても周辺の雑音が紛れ込むことは防ぎきれません。完璧な防音室を用意したとしても換気やエアコンなどによる暗騒音などは避けようがありません。
つまりは、スピーカから出た音は、実際に耳に届くまでに様々な要因によって姿を変えざるを得ないのです。こんなことは、ここで私が申し上げなくても、オーディオに取り組んでおられる方にとっては常識に属する問題です。
ですから、ある程度オーディオに取り組んでいけば、ある時点で部屋の問題と向き合わざるを得ないのです。
そして、その向き合いかたですが、ざっと見た感じでは以下の4点くらいにまとめられるようです。
- 家を建て替えて、できる限り理想的なリスニングルーム作りをする。
- 様々なアクセサリ類で音のチューニングを施す。
- ニアフィールドリスニングで部屋がもたらす影響をできる限り小さくする。
- イコライザーを使用する
理想は①でしょう。
問題は途轍もなくお金がかかるので現実的でないと言うことです。(^^;
なお、ここにはあげませんでしたが、最悪の選択は際限のないオーディオ機器のグレードアップを繰り返すことです。部屋の「悪さ」を「オーディオ機器の力不足」と勘違いしてしまうパターンであって、オーディオ屋にとっては有り難い客でしょうが不幸としか言いようがありません。
②のアクセサリ類によるチューニングも一定の効果はあります。ただし、この世界も魑魅魍魎が跋扈していますので、よほどの見識と自制心がなければ最悪の選択と同じようにグレードアップ地獄に迷い込んでしまいます。
意外と効果的なのが③の「ニアフィールドリスニング」です。
スピーカーは一般的に部屋の短辺に設置をして、リスニングポジションとの距離を長めにとるのが「常識」でした。
しかし、この常識に従うと、
- よほど広い部屋でないと、スピーカーと壁との距離が小さくなって不要な反射が大きくなる
- スピーカーから出た音が耳に届くまでの距離が長いので、その間に部屋の影響をより多く受けざるを得ない
という問題が発生します。
そこで、思い切ってスピーカーを部屋の長辺に設置して、スピーカーと壁との距離を充分にとり、さらにはスピーカとリスニングポジションの距離を小さくしてできる限り部屋の影響を小さくしようというのが「ニアフィールドリスニング」の発想なのです。
この提案のいい点は、やろうと思えば一銭のお金もかからないことです。
ただし、オーディオ機器の設置を根本的に見直すわけですから、体力のみならず途轍もない手間がかかります。現状のセッティングは誰であってもそれなりの時間と手間をかけて追い込んだものです。それを一度ご破算にして、もう一度ゼロからカット・アンド・トライでくみ上げようというのですからとんでもない話です。
しかし、お金は基本的には一銭もかかりません。必要なのは体力と手間を惜しまぬ「趣味心」です。
私は、こういうお金をかけずにできる対策というのは必ずやってみる人なので、2年前にスピーカーのセッティングを短辺方向から長辺方向に変えてみました。結果は上々だったので、今も基本的に「ニアフィールドリスニング」の道を歩んでいます。
もちろん、そう言うチマチマしたオーディオは俺の目指すものではない!!と言う人もいるでしょう。
「オーディオというのは、そこで生のオーケストラが鳴り響いているかのような迫力とスケール感を目指すものだ、何がニアフィールドリスニングだ!!ケッ!!」
と言う人がいても当然です。
しかし、オーディオとは「迫力とスケール」だと決めつけていなくて、何とか部屋の「悪さ」から逃げたいという人は、一度は試してみる価値はあると思います。
老婆心ながら、実行するときは現状のセッティング位置をテープなどでマーキングしておくことを忘れないようにしてください。マーキングさえしておけば、やって駄目だだった場合は体力さえあれば簡単に元に戻せます。
しかしながら、この「ニアフィールドリスニング」は、いみじくも述べたように基本的には「逃げ」です。部屋が持つ悪い特性はどうしようもないので、できる限りそこから「逃げる」事で悪影響を最小限にしようという「消極的な対応」なのです。
当然のことながら限界はあります。どんなに近くで聞いたとしてもヘッドフォンではないのですからフラッターエコーは避けようがありません。ですから、リスニングポジションの周波数特性がフラットになることはなく、特定の周波数が落ち込んだり増幅されることは避けようがありません。
そこで、最後に出てくる対応が④のイコライザーの導入です。
イコライザーとは何かというと
「音声信号の周波数特性を変更する音響機器である。イコライザーを使って、音声信号の特定の周波数帯域 (倍音成分や高調波成分あるいはノイズ成分) を強調したり、逆に減少させる事が出来、全体的な音質の補正(平均化) や 改善(音像の明確化など)、あるいは積極的な音作りに使用される。」
とWikipediaには書かれています。
つまりは、部屋の「悪さ」で特定の周波数が落ち込んだり持ち上げられたりするのなら、それと正反対の方向で周波数を補正してからスピーカーに送り込んでしまおうという発想なのです。その意味では、「ニアフィールドリスニング」が「逃げ」を基調とした消極的対応だったのに対して、イコライザは「攻め」を基調とした積極的対応だと言えます。
しかしながら、ネット上を調べてみても、イコライザを使った対策を報告しているサイトは非常に少ないです。
今回導入したBEHRINGERの「DEQ2496」に関して言えば、「団塊未満おじさんのオーディオ・ラブレター」くらいでしょうか。
実は、BEHRINGERのイコライザを導入する決心がついたのはこのサイトのおかげですし、それ以後の使いこなしについても非常に世話になっています。
では、何故にイコライザを使った対策が一般化していないのでしょうか。
理由は二つあります。
- イコライザなどはピュアオーディオを穢す邪道以外の何物でもない!!
- イコライザを間に入れると音質が劣化する。
①に関して言えば、プリアンプのトーンコントロールを使うことさえ「邪道」という人もいますから、イコライザなどは邪悪の化身以外の何物でもないと言うことですね。プリアンプのトーンコントロールどころか、プリアンプを使うことすら否定する人もいます。
「CDPをパワーアンプ直結がベストだ!!」
そう言う人にとってはイコライザなどは視野の片隅にも入らないでしょう。
しかし、トーンコントロールは積極的に使っている人でもイコライザには疑惑の目を向ける人は多いです。
「イコライザは面白いと思うけれど、間に挟むと明らかに音質は劣化するよね!」
全く持っておっしゃるとおりです。
かつてのイコライザはかなりの高級品でも、それをシステムの中に入れて音を出すと明らかに音質が劣化しました。
周波数の特性を是正できることによる音質改善のメリットと、イコライザを使うことによる基本的な音質の劣化を天秤にかけると、よほどの高級機をあてがわないと収支はプラスにはならない雰囲気でした。数万円程度の安物のイコライザでは明らかにデメリットが大きすぎました。
さらに言えば、最終的には自分の耳だけを頼りにイコライザを設定していくので、その設定を適切に行うのは素人には至難の業でした。結果として、かなりの高級機を買い込んでシステムに導入してもその機能を十分に発揮させる事ができずに、最終的にはイコライザを使うことによる音質劣化だけが残ることになりました。
ですから、①に関しては「哲学」の違いなので「お好きにしてください」としか言いようがありませんが、②に関して言えば、そう言う言われても仕方のない過去をイコライザは持っていたわけです。
しかし、そう言うイコライザの歴史を変えたのが、アナログからデジタルへの移行でした。
かつてのイコライザはアナログ領域で周波数を弄っていました。考えてみれば分かることですが、どれだけ丁寧に作り込まれていても音質の劣化は避けられません。
しかし、CDの登場によって音楽はアナログからデジタルへと移行していきました。そうなると、イコライザの世界にも今までのアナログ領域で周波数を弄るのではなく、デジタルの領域で周波数を操作する「デジタル・イコライザ」が登場してきました。
私が知る限り、その画期的な1号機はマランツの「AX1000」だったと記憶しています。1994年に発売されて「オーディオ・コンピュータ」とネーミングされていました。
専用のマイクで部屋の音響特性を測定し、自分が目的とする周波数のターゲットを設定すると自動的に演算を行って最適の周波数特性になるように設定してくれました。当然のことながら、周波数はデジタル領域で行われるのですから、基本的にはデータを書き直すだけなので、アナログ時代のような音質の劣化は最小限にとどめられていました。
今から見れば画期的な商品だったのですが、いかんせん定価190万円は高すぎました。(^^;
その後、ハイエンドオーディオの雄であるアキュフェーズからも「DG-28」が発売されました。
この機種はその後更新を続け、現在は第3世代の「DG-48」になっています。
アキュフェーズはパンフレットの中で「アナログ方式では、アナログ回路特有の経年劣化や温度依存性、回路定数精度の限界、音質調整時の特性劣化などがありましたが、デジタル方式ではこれらの問題を解消しています。」と誇らしげに述べていました。アナログからデジタルへと移行することで、イコライザに宿命的についてまわった音質の劣化はかなりの程度まで改善されたと言うことです。
当然のことですが、「DG-28」にも専用のマイクを使った自動補正機能がついていました。
自分の耳を頼りに設定を弄っていた時代は、結局は訳が分からなくなって泥沼の迷路に迷い込み、最後は「放棄」と言うことになりがちだったのが、少なくとも信頼できるスタート地点を自動補正機能は保障してくれたので、使い勝手の良さは飛躍的に向上しました。
しかし、問題は、マランツと比べればかなりこなれたとは言え、定価53万円はまだまだ高すぎました。
高すぎて手はでませんでしたが(^^;、それでも音質劣化のことをあまり気にすることなく適切に周波数だけを補正できる可能性が現実のものになりつつあったのです。
そして、この方向性はさらに前進を続け、DEQXの「PDC-2.6P」やReal Sound Labの「APEQ 2-pro DIO」なんてところまで行き着いています。
この機器は「音響パワーイコライジング」と名乗っていて、「スピーカの前面約400点の測定結果から、完璧な音響パワーイコライジングを実現します。それと同時に、位相とタイムアライメントも完全に調整します。これにより、スピーカから放たれる音は限りなく原音に近づき、トランジェントが改善され、豊かなステレオ感と正確な音の定位が得られます。」とうたっています。
いろいろ調べてみると、実によさげな機器なのですが、残念なのは84万円というプライスです。
あっしには買えません。^^;
そこで、このたび「遊んでみよう」と言うことで視野に入ったのがBEHRINGERの「DEQ2496」だったのです。
こちらの購入価格は約21K円でした。(^^;
高いのも手が出ないので困るのですが、安すぎるのも「疑惑」を感じます。そんな玩具みたいなものを買い込んで、結局は使い物にならずに「安物買いの銭失い」になるんじゃないの、という声が聞こえてきそうです。
当然私もそう思いましたね。
しかし、そう言う声を振り払って、これでしばらく遊んでみようと決心させてくれたのが、先に紹介した「団塊未満おじさんのオーディオ・ラブレター」さんのサイトでした。
「全損も覚悟で買ってみました。繋いだ瞬間に「だめ」とわかるかも知れないと心配しながら・・・。実はそういう悲しい経験も過去にはあるのです。しかし、今回は違いました。結論を言えば、200%の成功です。」
と言う言葉に背中を押されました。
さらに、時々おじゃまする「ゴンザエモンさん」のサイトにも
「ちょっと違うレベルの実験となるが、DG-48上のこのマニュアルのイコライザーカーブを近似値的に廉価なDEQ2496に移したらどのような音となるのであろうか。また、その差はあるのだろうか。・・・その結果であるが、当方の駄耳では残念ながら両機種の差を明確には捉えられない。・・・穏やかなレベルの周波数補正を行うのであれば、イコライザとしての機能や音質についてはDEQ2496でも充分かもしれないと思う。 」というのも大きな参考になりました。
確かに、いくら2万円程度の機器でも「繋いだ瞬間にだめとわかる」ようなレベルでは「遊ぶ余地」もなくなるので、さすがにそれでは困ります。その意味では、このお二人の実地での報告は参考になりました。
というわけで、今回は「BEHRINGER DEQ2496」導入に至までのお話でした。
次回からは、これを使ってみての様子などを逐次報告していきたいと思います・・・が、現時点での報告をひと言でまとめてみれば、いまや「DEQ2496」なしのシステムは考えられません・・・と言うくらいの優れものだと実感しています。
ただし、ホントに・・・使い方が・・・難しい。
イコライザ導入の成功おめでとうございます。当方はmpdの出力を同じパソコン上でイコライジングする方法を試していますが、別体イコライザとの音質差に興味があります。同じパソコンでイコライジングしようとするとCuBoxなどは使えず普通のx86パソコンが必要でCPU負荷もかかり音質劣化の原因となります。予算があれば別体イコライザの方が有利な面もあるのではと愚考しています。
あと使いこなすには測定は必須ですね。さらに測定結果を見てどこまで補正するかの判断も難しいです。
これは「横へ広げる方向」ではなくて、まっとうな進化といっていいのではないでしょうか。私も時間に余裕ができればDEQ2496を導入しようと検討しています。Windowsで再生していた頃は、もっぱらFrieve Audioの自動音場補正機能を使い、ジャンルに合わせて自分の好みのカーブに補正して聴いていました。カートリッジの交換みたいなものですね。
音質についてはDDCの挿入と同じで、S/PDIF接続となるため、DACではなくイコライザーのクロックが全体の音質を大きく左右することになりますね。DEQ2496はプロ用なので外部クロックも注入できますから、音質にこだわるなら大掛かりにはなりますが、外部クロックの導入が効果的でしょう。インフラノイズのGPS連動タイプな一度使ってみたいクロックです。
もっともDDCの場合は、本来不要なものをLinuxで高音質を実現するために仕方なく使うという性格のものですが、イコライザーの場合、たとえ微細な音質の劣化があったとしても、その効果のほうがはるかに大きいはずです。音楽を楽しむという観点からはf特と位相がきちんと揃った音で再生するということのほうがはるかに重要だと思います。
顰蹙を覚悟で言わせてもらうなら、自分の再生音の測定もしていないのに、ケーブルを取っ替え引っ替えして高域がどうだ低域がああだなどというのはナンセンスではないか思っています。
さらに、せっかくPCを使うわけですから、イコライジングはハードウェアをわざわざ使わなくてもソフトウェアで解決するのが、PCオーディオのメリットを最大限に活かせる方法です。しかし、Frieve Audioは更新ストップ、某オーディオ店が販売していたイコライジング機能付き再生ソフトも販売中止と、残念ながらソフトウェアベースの本格的なイコライジングは事実上不可能な状況です。
個人的な邪推ですが、オーディオの販売サイドにとって、デジタルイコライジングというのは商売上不都合なものであって、あまり積極的に薦めたくはないでしょうね。これが広く普及してしまうと、オーオタが今までのように機材を取っ替え引っ替えしてくれなくなるのは目に見えてますから。マウスでちょっとカーブをいじれば音なんて簡単に変わりますからね。PCオーディオにイコライジングが結びついてしまうと、これまでのビジネスモデルは完全に崩壊するでしょう。
早速のコメントありがとうございます。
使い始めて一週間程度なのですがそのあまりの「難しさ」に嬉しい悲鳴を上げています。(^^v
それと同時に、ほとんど音質の劣化なしに設定した内容がドンピシャリ音に反映する「凄さ」に感嘆しています。
>これが広く普及してしまうと、オーオタが今までのように機材を取っ替え引っ替えしてくれなくなるのは目に見えてます
全くその通りだと思います。
そして、31バンドのFFT測定器として見てもかなり優秀なやつなので、システム全体の問題をかなり客観的に見ることができます。
今は使い始めたばかりで、とりあえずはマイクを使った自動補正の状態を基本にあれこれ弄っているところです。それでもかなりの「変化(きっと改善だと思っています)」が感じられます。
これからも、このてんこ盛りの機能のあれこれにチャレンジしていきたいと思っていますので、そのあたりのドタバタを少しずつ報告していきたいと思っています。
分からないことがあれこれ出てくると思いますので、その時は色々と知恵を貸していただけると嬉しいです。。