もう少し気楽に遊んでみよう

今回の内容はほとんど中味はありません。(^^;言ってみれば「独り言」みたいなものです。

アナログ時代はカートリッジをあれこれと取り替えて音楽を再生するのはオーディオマニアにっては常識のようなものでした。そして、再生したい音楽ジャンルによってあれこれとカートリッジを取り替えるのは面倒なので、一台のプレーヤーにアームが2本も3本もついているものもありました。
下の写真は今も現役のプレーヤー(定価が129,800円という馬鹿高くない製品)ですがトーンアームが2本ついています。やはり、カートリッジをあれこれと取り替えて音楽を楽しめるのがアナログの楽しみの一つなのです。

サンバレーさんの「SV-A2」
analog_p_1

アナログ再生の世界では、それ以外にも色々なやりかたで(シェルやリード線の選択・バランス調整と針圧・高さ調整・・・等々)音づくりに積極的に関わることができたものです。
当然のことながら、それを「面倒」と考えてはいけません。
多くのオーディオマニアはそれを「趣味性」と呼んで愛でたわけです。

オーディオの世界がアナログからデジタルへとシフトすることで何が一番つまらなくなったかと言えば、そう言う「面倒くささ=趣味性」が姿を消してしまった事でした。

デジタルの世界ではCDプレーヤーを買ってくれば、それに対して働きかけることはほとんどできません。
やれることと言えば、振動対策や電源対策で少しは音質の改良を図るくらいです。最近はクロック・ジェネレーターと言う途轍もなく「高価な時計」をあてがうことでさらなる音質の向上を目指す人もいますが、数十万円のCDプレーヤーに数十万円、中には百万円を超える「時計」をあてがうのはどこか間違っている気がしたりもします。

しかし、決定的に悔しいのは、そう言う「対策」がもたらす音質の改善がカートリッジをあれこれと取り替えて様々な音の世界を楽しんでいた「喜び」とは全く性質が異なることです。

アナログの世界でカートリッジを変えれば音の世界は全く別物に変わりました。
それに対して、デジタル世界の対策は、例えてみればひたすら深く穴を掘っていくような雰囲気です。確かに、対策を突き詰めていけば音の凄味はましていきますが、それでも音の基本的なベクトルは変わりません。
これは、ディスクレスのPCオーディオにおいても同様です。
たとえば、「Cubox」にみみず工房さんが徹底的にチューニングしてくれたイメージファイルを書き込み、さらには優秀なDDコンバーターとクロックジェネレーターをあてがい、さらには振動対策と電源対策を突き詰めていけば確かに音の凄味はましていきます。
しかしながら、凄味はましても基本は同じベクトルの中での営みであって、所詮は掘っている穴が深くなるだけです。

正直言って、こういう方向での突き詰めだけでは、いささかつまらなくなってきました。
オーディオを通して音楽を楽しむというのはもっと多様性があってもいいのではないかと、改めて思うようになってきたのです。

そんな私の頭の中から離れなかったのは、サブシステムの音でした。その辺の経緯は「ナローレンジの美」と言うことで少し書いたことがあります。
こちらはPARASOUND「D/AC-800」と言う、今から見れば時代遅れとしか言いようのない古いDACを使ったシステムです。


DAC-800_1

現在は、あの文章を書いたときと少し違って
「VortexBox (ファンレスPC)」→「ND-S1(専用電源)」→「D/AC-800」→「プリアンプ」
となっています。
「Voyage MPD (ファンレスPC)」が「VortexBox (ファンレスPC)」に変わっています。

このシステムの音はこんなかんじです。

「現代オーディオに求められる要素は何一つありません。透明度も解像度も高くありません。レンジも広くありません。情報量も多くないのでザックリとした感じの音がします。」
しかしながら、
「そこから聞こえてくる音には何ともいえない野太さみたいなものがあって、ソナスのエレクタアマトールとの相性が実にいいのです。神経質なところが全くなくて、のんびりとくつろいだ感じで音楽を楽しむことができます。特に、女性ボーカルとはベストマッチングで、高橋真梨子や中島みゆきなどの年増のお姉様方(失礼!)はとりわけ魅力的です。エディット・ピアフやアマリア・ロドリゲスなどの古い録音も実にいい雰囲気で再生してくれます。」
これを私は「ナローレンジの美」と名づけました。「Voyage MPD」を「VortexBox」に変えることでナローな美しさにさらに磨きがかかっています。(^^;

つまりは、オーディオというのはあくまでも音楽を楽しむための手段ですから、ひたすら掘り下げるだけが脳ではない・・・という事です。
そして、今回も「Cubox」の電源部の改良という「掘り下げ作業」を行ったのですが、結果として透明度、解像度が向上することで得られるものはたくさんありました。しかし、多くを得る代わりに失うものがあることも感じずにはおれませんでした。

もう少し具体的に言えば、室内楽やピアノなどでは得られるものが大きかったのですが、編成の大きなオーケストラ楽曲では失うものが少なくないのです。
そして、その失うものの原因は明らかにシステム全体の限界に起因するものでした。
ソナスのエレクタアマトールはもともとが大編成の音楽を鳴らすのが得意なスピーカーではありません。アンプにしてもそれほど性能の高いものを使っているわけではありませんから(「アキュフェーズのC200-V(プリ)+「アキュフェーズのP-300V&ヤマハのMX-1(パワー)」)それがさらに足を引っ張っています・・・明らかに(^^;。

そんなわけで、一時は「オーディオ人生最後のグレードアップ」だー!!と息巻いたのですが(^^;、しばし落ち着いて黙考してみれば「掘り下げるだけが脳なのか?」という思いもわいてきたわけです。
そして、そんな時にふと頭をよぎったのが「CuBox」がメインにすわるまで我がシステムに君臨していた「Voyage MPD」のラインでした。

<電磁波対策まで施した「Voyage MPD」>
IMG_6244

このライン(「Voyage MPD (Starter Kit:シンさんヴァージョン)」→「UDIF7(自作ケース)」→「D-07X」→「プリアンプ」)は、サブシステムのように別の世界をみせてくれるようなものではなく、メインのラインと音のベクトルは基本的に同一だと感じていました。何と言っても、DACがメインと同じエソテリックの「D-07X」ですから、上の表現を使えば、「同じ穴を掘る狢」と感じていたのです。
そして、「Cubox」と「Voyage MPD」の違いは「堀り方の違い」だけであって、その「違い」は「Voyage MPD」の方が明らかに「堀りかたが浅い」と判断してしまったわけです。
ですから、「Cubox」がメインにすわってからは「2軍落ち」どころか、システムから切り離されて放置されるという不遇の日々を送っていました。

d07x

しかしながら、この1週間ほど、この「Voyage MPD」のラインであれこれ聞いてみて、どうやら「Cubox」と「Voyage MPD」は「同じ穴を掘る狢」ではなくて、これもまた「ちょっと違う世界」を描き出すラインかもしれないと思うようになりました。

DACがどちらもエソテリックの「D-07X」ですから、旧時代のPARASOUND「D/AC-800」を使っているサブシステムみたいに世界がガラッと変わるというわけではありません。オーディオ的にシビアに見れば、「Voyage MPD」は「Cibox」と比べてみれば透明度も解像度もそれほど高くもなく情報量は明らかに少ないです。
有り体に言えば、「Voyage MPD」は結構アバウトな感じで鳴ります。しかし、そのアバウトさがオーケストラ曲にピッタリな感じなのです。

やはり、そう簡単にグレードアップができるわけではありません。
オーディオ屋さんには困った話でしょうが、それなりに資金を投入し、さらには手間と時間をかけて自分なりに熟成させてきたシステムは、そうそう簡単に手放すことはできません。
何度もしつこく繰り返しますが(^^;、アナログの時代はそう言う不満の部分をカートリッジを変える事でかなり遊ぶことができました。数十万円の、場合によっては百万円を超えることもあるスピーカーやアンプを買いかえることは簡単にはできません。しかし、カートリッジであれば数万円程度の投資であれこれとトライする事ができました。
もちろん、数十万円もするカートリッジもありましたが、アナログ全盛の時代には数万円程度で基本性能のしっかりとした多様な個性あふれるカートリッジがゴロゴロしていました。
アナログ最後の時代だった80年代前半は独身貴族の気楽さも手伝って随分とカートリッジを変えては遊んだものです。

もしも、デジタルにおいてもそのような大らかな楽しみ方を受け入れるならば、カートリッジを変えて遊んだように入力系のラインを色々変えて遊んでもいいような気がしてきました。
もちろん、穴をドンドン掘っていって、その底を突き止めてみるというのは絶対に必要な営みです。ここを捨ててしまえば、オーディオの世界は堕落してしまいます。
しかし、掘るばかりでは疲れてきます。

たまには違う世界で遊んでみたくなります。
CDプレーヤーやDACを何台も用意して、それをカートリッジのように楽しむというのは資金面から考えても一般的には不可能です。しかし、PCオーディオの世界が百花繚乱と咲き乱れることで、それほどの資金を投下しなくても、それなりに面白い入力系のラインが用意できるようになりました。

  1. 年増姉さんのボーカルは今でもサブシステムで聞いています。このシステムで高橋真梨子や中島みゆきを聞いていると、これ以上は何もいらないと思えるような不思議な魅力があります。
  2. オーケストラ曲は最近は「Voyage MPD」のラインで聞くことが増えてきました。「逃げ」かもしれないのですが、情報を上手くまとめた雰囲気で鳴り響くことでオケがぞれっぽく聞こえます。聞いていて楽しいのは明らかにこちらの方です。今さらこんな事を書くのは申し訳ないのですが、シンさんヴァージョンの「Voyage MPD」は見事な世界観を持っています。私は決して「アナログ>デジタル」という価値観を持っているわけではありませんが、それでもシンさんヴァージョンの音はデジタルの世界の中では一番アナログ的な世界を持っているように思います。その特質が、おそらくはオーケストラ曲への相性の良さの源になっているのかもしれません。
  3. ピアノ曲や室内楽曲は「Cubox」の独擅場です。とりわけ、三重奏や四重奏の曲などは「ついにここまできたか!!」という感じのレベルにまでこれたと自負しています。

こんな感じです。
そして、有り難いのは、この3つのラインはクライアントPCから簡単に操作が切り替えられると言うことです。GMPCのProfilesに登録しておけばワンクリックで簡単に切り替えられます。アナログ時代のカートリッジ交換の煩わしさ(それを「趣味」と呼ぶのですが^^;)を思えば嘘みたいな手軽さです。
確かに、LANケーブルが何本も這っているというのはお洒落さにはかけますが、壁際に沿わせておけばそれほどみっともなくもないでしょう。それ以上に、その日の気分で、または再生したい音楽のジャンルによって音の世界を変えられるのが実に楽しいのです。
一昔前に「DACカートリッジ論」なるものが唱えられましたが、残念ながら一般化はしませんでした。やはり、何台もDACを用意するというのは「お金のかけどころ」としては一般化しなかったようです。しかし、「Voyage MPD」「Cubox」「VortexBox」と言うように、入力系のラインをいくつか用意するのは手間もかかるしノウハウも必要ですが、お金はそれほどかかりません。
お金をかけるのはDACの方にして、趣味としてはその前段の入力系で遊ぶというのは「面白い遊び」かもしれません。

さらに言えば、ドッグイヤーと思われたPCオーディオの世界も、どうやら・・・少しは落ち着いてきたような雰囲気があります。
技術的に目を見張るような提案は「MPD」以降あらわれていません。←言い切っちゃいましょう(^^v

この2年は、MPDを核に、それをどういうPCの上で走らせるかが興味の対象でした。
その営みの基本ラインはソフト的にもハード的に極限までにシンプルで軽量化を図る試みだったのですが、それも「Cubox」にまでたどり着いて一段落したようです。その証拠に、このサイトもそうですが、この流れを牽引してきた「みみず工房」さんや「シンさんのサイト」などでもいささか動きが静かになった雰囲気があります。
ならば、穴掘り作業が少しばかり一段落したならば、その隙間を狙って世界を横に広げてみてもいいのではないかと思う次第なのです。

そんなわけで、しばらくは横へ広げる方向で色々遊んでみたいと思いますので、そのお遊びの報告などを少しずつやれれば楽しいかな?等と思っている次第です。
以上、独り言、終わり!!


4 comments for “もう少し気楽に遊んでみよう

  1. old boy
    2013年8月18日 at 7:01 PM

    気楽な話題をもう一つ。
    私のオーディオは貧弱なので、VortexBoxで十分満足しています。
    このシステムを実家(滋賀県)と山荘(長野県)に構築し、山荘ではWiFiでネットのバロック音楽も聴けるようになりました。
    ところで以前このサイトでも若干話題となったbug headが山荘から帰ってきたら、久しぶりにバージョンアップされていました。
    その結果、スローソングバグも解決し、i5-PC(レノボ、4万円)でも4倍変換に問題がなくなりました。
    これはPCオーディオを安直に、また貧弱なオーディオシステムで高音質を楽しむには最適で、そのような方(苦労したくない人)にお奨めです。

  2. Fuji
    2013年8月25日 at 8:23 AM

    ユングさん、お世話になります。
    ユングさんはアナログレコードもお聞きの様ですが、アナログレコードの現状はどの様になっているのでしょうか。
    1:まず新譜のレコードは年間どの位発売されていますか。
    2:発売された新譜のレコードはアナログ録音された音源か、デジタル録音された音源か、どちらを用いていますか。
    3:デジタル録音された音源を使用している場合、デジタル音源でアナログレコードを作成するメリットとは。
    (デジタル音源でアナログレコードを作成すると、アナログレコードの音として聴けるのでしょうか。)
    4:デジタル録音された音源は、そのデータを直接再生(PCオーディオ等で)した方が音質的に有利ではないか等。
    如何でしょうか。私も若い頃はアナログレコード、テープ(オープンリール)等で聴いておりましたのでこれらの音質は
    まだ覚えております。しかし当時の安サラリーマンの給料では質の良いカートリッジは揃えられず、MM型カートリッジ
    の音しか聞いておりませんので比較をするのは無理が有ると思いますが、現在使用している mpd の音はかなり良
    いと思うのですがユングさんはどの様にお考えでしょうか。

    • 2013年8月25日 at 5:26 PM

      >ユングさんはアナログレコードもお聞きの様ですが、アナログレコードの現状はどの様になっているのでしょうか。

      これは申し訳ないですが、現状は「一時塩漬け」状態になっています。
      長年使っていたプリアンプ(アキュフェーズのC-200V)のフォノイコの調子が悪くなってしまったこと、PCオーディオ関連にどっぷりと首までつかってしまったためにアナログ関連にまで手が回らなくなったこと、などが大きな理由です。
      結果として現在は「一時塩漬け」状態になっています。

      しかし、「趣味性」と言うことでは、今でもアナログの再生は充分すぎるくらい魅力があると思っていますし、個人的にはLPのデジタル化は是非ともやってみたいと思っています。ですから、今でも時々中古レコード屋さんをまわっては、面白そうな中古レコードがあれば買い込んでいたりします。(馬鹿高いのは買いません。数千円程度が上限ですが・・・。)

      個人的には、オーディオは音楽を聴くための「手段」ですので、新譜のLLPには全く興味がありません。理由は簡単で、聞くに値する「音楽」がないからです。事情はハイレゾ音源に関しても同じです。
      ですから、「デジタル録音された音源を使用している場合、デジタル音源でアナログレコードを作成するメリットとは。」と聞かれると、LPと言うだけで高い値段で買ってくれるユーザーがいてそれで商売として成り立つからでしょう・・・としか言えませんね。
      こんな言い方をすると頑張っているレコード屋さんには怒られるかもしれませんが、個人的には全く興味がありません。私が興味があるのは中古レコードだけです。

      素敵な音楽が封じ込められた中古レコードを買い込んできて、そこからできる限りいい状態で音楽を拾い出してデジタル化していくのが私の夢です。定年をむかえて「毎日日曜日」になれば、これは絶対に取り組んでみようと思っています。

      なお、一つ気になったのは、「当時の安サラリーマンの給料では質の良いカートリッジは揃えられず、MM型カートリッジの音しか聞いておりませんので比較をするのは無理が有ると思いますが」の部分です。
      世間的には「MM型

  3. Fuji
    2013年8月25日 at 6:37 PM

    >現状は「一時塩漬け」状態になっています。

    早速ご教示いただき有難うございます。そうですか、新譜のレコードでは聴きたい物が無いと言う事なのでしょうか、私もハイレゾ音源は現在全く購入しておりません。以前購入したハイレゾ音源が30程あるのですが結局聴くのはCDでリッピングした音源ばかりですし、ハイレゾより良い音を出してくれるCDの音源はいくらでも有ると思いますので、又ハイレゾではメジャーレーベルの音源も極めて少ないですから。

    >今でも時々中古レコード屋さんをまわっては、面白そうな中古レコードがあれば買い込んでいたりします。

    これは楽しそうですね、私も中古レコード屋さんをまわって見たいとは思うのですが、アナログレコードを再生する装置が無く、一から全て揃える必要が有りますし設置スペースも確保が難しい為、現在はPCオーディオのみで楽しんでおります。

    >素敵な音楽が封じ込められた中古レコードを買い込んできて、そこからできる限りいい状態で音楽を拾い出してデジタル化していくのが私の夢です。定年をむかえて「毎日日曜日」になれば、これは絶対に取り組んでみようと思っています。

    是非楽しんで下さい。現在私はその真っ只中におりますが、PCオーディオであれこれ弄くって楽しい時間を過ごしております。

Comments are closed.