再びアップサンプリングの功罪について

APUという強力な一枚基盤の登場と「SoX Resampler」というライブラリのおかげで、余裕で4倍オーバーサンプリングが可能となりました。2倍オーバーサンプリングではその効果は功罪相半ばという感じだったのですが、4倍オーバーサンプリングすることで、明らかに「罪」の部分が減少し、「功」の部分が前面に出てきた感じだったので、最近は「44.1KHZ→176.4KHz」へのアップサンプリングを採用してきました。

しかし、メモリ再生を始めることで再び考えなおす事になりました。
結論から言えば、いろいろと聞き比べてみた結果として、アップサンプリングすることはやめにして、ビット拡張(16bit→24bit)だけおこなっています。

理論的には何の効果もないというのが定説に近い

このアップサンプリングに関する問題については散々考えられてきました。
そして、その理論的な結論としては、以下の通りとされているようです。

  1. A/D変換された信号はどんなに頑張ってD/A変換しても元には戻らない。
  2. 忠実にD/A変換したアナログ波形であっても元波形とは違うのに、変換の過程であれこれ弄っても「音が良くなる訳がない。」

ただし、この「1」に関しては補足が必要です。
これはアナログ波形は滑らか曲線であるのにデジタルはギザギザの階段状になるという低レベルの話を言っているのではありません。言うまでもなく、CD規格には96dBをこえるダイナミックレンジはありませんし、20kHzをこえる領域の音楽データは再生不可能です。しかし、その枠の中ならば一切の曖昧さもなく完璧に録音時のデータが保持されているのです。

「取り扱う信号が周波数 fc より高い周波数成分を持たないとき、サンプリング周波数 fs は
  fs≧2fc
であれば、サンプリングされた信号から元の信号は完全に再現される。」

というサンプリング定理の重みはかみしめる必要があります。

サンプリング周波数「44.1kHz」というCD規格であれば、20KHzまでの音楽信号は完璧にもとの記録されたアナログ波形に戻すことが可能なのです。その意味では、塩化ビニルに刻み込まれた溝を引っ掻いて信号をを読み出すアナログ再生よりははるかに高い忠実性をもっています。

ただし、楽器の響きには倍音成分を中心として20KHzをこえる領域が含まれていると言うことも事実です。そして、アナログ再生の優位性を主張する人たちは、その20KHzをこえる領域がアナログ再生には含まれていて、そしてその領域まで再生できるというのです。
この主張がいかに的はずれなものであるかは既に検証済みですから、繰り返しません。興味のある方は「CD規格って不十分なの?(2)~アナログは20kHzを超えるのか?」あたりからご覧いただければと思います。

しかしながら、いかに雑音領域の信号であってもアナログ信号には20KHzをこえる領域の信号が含まれていることは事実であり、その領域の信号はCD規格では元に戻らないことは事実です。ですから、「どんなに頑張ってD/A変換しても元には戻らない。」というのは、そう言うレベルにおいて「戻らない」と言っているのです。

ですから、上で述べた結論の中で重要なのは「2」の「変換の過程であれこれ弄っても音が良くなる訳がない。」の方です。
言うまでもなく、ここで述べている「あれこれ弄っても」の最たるものがアップサンプリングです。

アップサンプリングという行為は、デジタル信号をアナログ信号に変換する過程で「弄る」訳ですから、原理的に言えばわざと「劣化」させているわけです。中には、「高域補完」と言って、失われた20KHzをこえる領域を作り出すような技術もあるのですが、そうやって補完した高域の信号がもとの信号とイコールにならないのは明らかですから、それもまた人為的な劣化行為と言わざるを得ません。
ちなみに、通常のアップサンプリングでは失われた20KHz以上の高域情報が補完されることはありません。このあたりの単純な事実を誤解されている方も少なくないので念のために付け加えておきます。

ただし、「劣化」であっても音は変化する

しかし、問題なのは、オーディオというものは何をやっても「音が変化」するという事実です。
ケーブル類から始まってインシュレーター、ボード、そしてセッティングなどと言う王道的な対策は言うまでもなく、PCオーディオならば、再生用PCの不要なデバイスを眠らせると言うような些細な対策であっても音は変化するのです。
ですから、アップサンプリングというような、信号そのものを弄るような「対策」を施せば再生される音が大きく変化するのは当然のことです。そして、その変化が原理的には「劣化」であったとしても、音の良し悪しは理論ではなくて最終的には感覚で決まると言う困った「現実」が存在します。

問題はこの「感覚」です。

いつも聞きなれている音に何らかの対策を施せば音は必ず変化します。
そして、その変化した音を「改善した」と思いたいのが人の常、人情と言うものです。

この時に「自分なりのいい音」の基準を定めておかないと、とんでもない泥沼にはまりこんでしまいます。この事の重要性は今さら繰り返すまでもないことです。
そして、私のようなクラシック音楽が中心となる人ならば、その基準は言うまでもなく実際のコンサートの「音」になるのでしょう。これ以上のスタンダードは存在しません。

しかしながら、このアップサンプリングという「対策」は良くできていて、その様な基準を頭にたたき込んでいるつもりでも、その変化した音は「改善」したような雰囲気になります。とりわけ4倍オーバーサンプリングの効果は絶大で、かなり魅力的な音に変化します。
ですから、あれこれ勘案した結果として、この半年ほどは「4倍オーバーサンプリング+DACでのDSD変換」をデフォルトにしていたわけです。

ところが、メモリ再生を始めてから、音の雰囲気がかなり変化しました。
再生するファイルの置き場を変えるだけでこんなにも音が変化するものかと驚かされたのですが、やはりNASから再生用PCに至るまでの経路で音楽信号がかなり変化するという事実は受け入れざるを得ないようです。
いや、「変化」などと言う遠慮した表現は避けて、明確に「劣化」とした方がいいのかもしれません。

そして、その様な変化(劣化)からフリーとなったメモリ再生だと、必ずしもアップサンプリングが有効とは思えないようになってきたのです。

喩えがきわめて感覚的であり、全く持って理論的ではないのでいささか気がひけるのですが、このメモリ再生でのアップサンプリングした音を聞いていて感じたのは「アップサンプリングとは香水のようなものかもしれない」ということです。
ただし、この「香水」はかなりの高級品のようで、実にかぐわしい香りがします。そして、NAS経由の過程で紛れ込んだ変化(劣化もしくそれに伴う特有の匂い)を打ち消すという意味で、この「香水」が感覚的な部分において有効性を発揮していたような気がするのです。

しかしながら、メモリ再生にはその様な変な匂いがつきまとうことはありません。おまけに、素晴らしいまでの素肌美人です。
ならば、そう言う美人に、いかに高級品であるといえども「香水」などは不要だという判断があってもいいと思うようになってきたのです。

実験は簡単にできます。
設定ファイル(mpd.conf)を書き直すだけですし、DACでのDSD変換もオフにしました。外部クロックの周波数も44.1KHzに戻し、全く持って素の状態で聞いてみればいいだけの話です。

結果は上々です。
音の傾向はかなり異なりますが、この低域部分がしっかりと骨太に再生され、透明度がワンランク上がった音こそがソフトにもとから閉じこめられていた音だと判断しました。

確かに、アップサンプリングというのは非常に良くできた技術ですが、それを使わなくても不満を感じない状態が実現できるならば積極的に使う必要はありません。
結論として、この音に香水は不要だと判断しました。
実は、これと同じ結論をコメント欄で寄せていただいた方がおられました。この報告もこの決断の後押しとなりました。

重要性を増すリッピングへの配慮

PCオーディオで再生に使うのは「ファイル」です。
その「ファイル」をネット経由で手に入れる方もおられるでしょう。とりわけハイレゾ音源に興味ある方はそちらがメインになるかもしれません。
しかし、現実には、通常のCDからリッピングしたファイルを再生するというのが圧倒的な多数派ではないでしょうか。
私の場合で言えば、ほぼ99.9パーセント以上はその様なリッピングしたファイルです。とりわけ、私のように、積極的にハイレゾ音源を否定しているような人ならば事情はほぼ同じようなものでしょう。

そうなると、今まで以上にリッピングの過程で元のデータを劣化させないと言うことがとても大切になってくるはずです。もちろん、リッピングの重要性は今までも言われてきたのですが、メモリ再生となるとその重要性は決定的と言わざるを得ません。
言うまでもないことですが、ここの部分で劣化してしまえば、後はどんなに手を尽くしてもその劣化をリカバリすることはできません。それこそ、その劣化したデータをあれこれ弄ったとしても、その劣化したデーより良くなると言うことは絶対にあり得ないからです。

と言うことで、次回は、このリッピングをめぐる問題について再度考えてみたいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です