CDはPCでリッピングすればデータが正確に拾い出せるが、CDプレーヤーではそれが難しい。
ある方に言わせれば、これこそがPCオーディオにおける「最大の都市伝説」と言うことなので、今回はこの問題を取り上げてみたいと思います。
私が最初にこの都市伝説に飛びついた理由
まず、正直に申し上げると、私もPCオーディオに取り組み始めたときにこの「都市伝説」に飛びつきました。少し言い訳めいたりもするのですが、そのあたりの経緯について詳しく述べておきます。
まずは昔話になるのですが、私がPCオーディオという世界に飛び込んだときのことを、こんな風に振り返っています。
「私の場合におけるPCオーディオのファーストインプレッションは、仕事で使っていたPCに「Roland UA-30」というインターフェイスをつないで、メインシステムのDAコンバーターにつないだときのものでした。
もともとは、アナログレコードの音源をデジタル化してPCに取り込むのが主たる目的だったのですが、その頃既に「PCオーディオ」と言うことが主張され始めていたので、ものは試しと思ってCDをリッピングしてPCから音楽再生させてみたわけです。
その時の「驚き」は今も鮮明に思い出すことができます。
それは、良いとか悪いとか言うことではなく、今まで聞いたことのなかった類の音でした。その時の感想をどこかに書いた記憶はあるのですが、どうしても探し出せないので、記憶をたどりながら再現するとざっとこんな感じだったと思います。
『今までは一つの音の塊として聞こえていたものが、一人一人のプレーヤーが演奏して一つの響きとなっていることが分かるようになりました。これは、COプレーヤーを使って再生していたときには絶対に経験することのできない音の世界でした。』
これをもう少し分析的に振り返れば、情報量が増えて解像度が上がったと言えるのでしょうか。しかし、そんな細かいことはどうでもいいことであって、もっとも重要なことは、この最初の出会いにおいてPCオーディオに「可能性」が感じられたことでした。」
私は理論的にどれだけ正しいと説得されても、肝心の「音」が魅力あるものとして立ち現れてこなければ何の意味も感じません。しかし、「ファーストインプレッション」で魅力を感じた提案ならば(例えばPCオーディオ)、それを深めていく上で理論的な解明は欠かせないものだと思っています。
最初に感じた魅力をより魅力あるものに仕上げていくには、何らかの「理論」が必要であり、役立つものだと思うのです。
PCによる音楽再生という提案は、この上もなく魅力的なものとして私の前に立ち現れました。
そこで、上で述べたような素晴らしい「ファーストインプレッション」を説明できる「理論」として飛びついたのが、その当時広く流布していた「CDはPCでリッピングすればデータが正確に拾い出せるが、CDプレーヤーではそれが難しい。」という理論だったわけです。
多くのCDをリッピングしていく中で気づいたこと
ですから、私がこの世界に取り組み始めたときに真っ先に「改善」したことは、より正確にリッピングできるようにソフトを選び、CDドライブを質のよいものにすることでした。
そのあたりのことは、「CDから音楽ファイルをリッピングしよう!」と言うページにあれこれ書いています。
少しばかり抜粋しますと、
「リッピングするための光学ドライブに何を使うか?
これはズバリ書いておきましょう。PCオーディオを志すものは迷わずにPremium 2を使いましょう。
確かに、そこそこの光学ドライブを使っているのならば読み取り能力に関しては大差はないように思いますが、それでも、じっくり聞き込んでみると「Premium 2」の優秀さは明らかなように思えます。ここは迷わず、PCオーディオの定番とも言うべき「Premium 2」を選びましょう。」
等と書いています。(^^;
まあ、この「理論」を信じていろいろやってみたわけです。
しかしながら、いろいろやっているうちに疑念がわいてきました。
それは、「いろいろな条件でリッピングしたファイルを比べてみたらどうですか?」という指摘をいただいたことがきっかけでした。
その経緯については「リッピングについて」という記事にまとめてありますので、詳細はそちらをご覧ください。同じCDをいろいろ条件を変えてリッピングしてみてそのバイナリ一致を検証してみた記事です。
ただし、そんなものを悠長に読んでいられないという方のために一部抜粋しておきます。
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まず最初に比較したのは以下のような仕様です。
(1)音楽再生専用PC+外付けドライブ+4倍速+オーディオグレードUSBケーブル
(2)音楽再生専用PC+外付けドライブ+4倍速+汎用USBケーブル
(3)音楽再生専用PC+外付けドライブ+最大速+オーディオグレードUSBケーブル
(2)音楽再生専用PC+外付けドライブ+最大速+汎用USBケーブル
結果から言えば、全てのバイナリデータは一致しました。・・・(^^;
CDからのリッピングに関してはケーブルによる差はないと言うことらしいです。
さらに低速でリードしても、最大速でブン回しても差はないと言うことらしいです。
やはり、「違うと言えば違うような、同じと言えば同じような・・・」というのは、やはり差がないと判断すべきなのでしょうね。
そこで、ついでに、外付けのドライブと内蔵ドライブを使ったときの比較もしてみました。
(1)音楽再生専用PC+外付けドライブ+4倍速+オーディオグレードUSBケーブル
(2)音楽再生専用PC+外付けドライブ+最大速+オーディオグレードUSBケーブル
(3)音楽再生専用PC+内蔵ドライブ+4倍速
(4)音楽再生専用PC+内蔵ドライブ+最大速
これもまた、バイナリデータは完全に一致しました。
実はこれもまた聴感上は「違うと言えば違うような、同じと言えば同じような・・・」レベルだったので、やはりお前もそうか・・・という感じです。
そこで、さらに調子に乗って、音楽再生用PCと汎用PCでの違いも比較してみました。
(1)音楽再生専用PC+内蔵ドライブ+4倍速
(2)音楽再生専用PC+内蔵ドライブ+最大速
(3)汎用PC+内蔵ドライブ+4倍速
(4)汎用PC+内蔵ドライブ+最大速
何と、これもまたバイナリデータは完全に一致しました。
やはり、CDからのリッピングに関しては、よほど酷いPCやドライブを使わない限りは問題は起きないようです。
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そして己への教訓として「聴感上「違うと言えば違うような、同じと言えば同じような・・・」レベルは、違いなしと断ずべし。」とまとめています。
いかに鈍な私でも、この比較検討を通して「CDはPCでリッピングすればデータが正確に拾い出せるが、CDプレーヤーではそれが難しい。」という理論にクエスチョンマークがつきました。PCに組み込まれているチープなドライブを最大速度でブン回してリッピングしても、ファイルは完全にバイナリ一致したのですから、それらよりははるかにしっかりと作られているCDプレーヤーが等速でデータを読み出してエラーが出るはずがないのです。
そして、随分多くのCDをリッピングしてきた経験から言って、読み取り時にエラーが出るような具合の悪いディスクは100枚に1枚あるかどうかです。さらに又、本当に具合の悪いディスクはリッピングをしてもエラーの数が上限に達して結局は読み取り不可になってしまう事が多いです。ですから、どうしてもそう言うディスクをリッピングしたいときはエラーの上限数の制限を無効にしないといけないので、結局はCDプレーヤーと同じ事になってしまいます。
そんな時に、例えばjuubeeさんの「プレーヤーのS/PDIF出力をバイナリ比較」という記事なども拝見して「やっぱりね」等と思った次第です。
それ以外にも「デジタルオーディオにおけるエラー訂正とデータ補間」と言うページにおいて「リッピングにおいても、CUエラーが出るようなケースでは、完全に正しい信号を読み取れるという保証はありません。多数回試行して、最も同じ結果になった回数の多い数値とする、という程度のものです。」と書かれているのを拝見するなどして、「CDはPCでリッピングすればデータが正確に拾い出せるが、CDプレーヤーではそれが難しい」という図式は間違いなく都市伝説として葬り去られるものだと確信した次第です。
だったら、やはりPCでリッピングしてファイル再生していこう
ただし、それでもなお、私は再生にCDプレーヤーを使う気になりませんでした。
以下、私が述べることに対して、もしかしたら不快な思いをされる方がおられるかもしれませんが、それは決して誰かを貶すような目的で書いているのではなく、あくまでも私が率直に感じた「感想」を述べたものだと了解してください。
少し記憶が曖昧なのですが、例えばESOTERICの高級CDプレーヤーと「Premium 2」を比較して、「さすがはESOTERICの技術は素晴らしく、Premium 2に対してひけをとるところは全くない」とまとめられていた記事がありました。そして、「今後も自分はCDプレーヤーを使い続ける」みたいな感じでまとめておられました。
失礼ながら、この記事を拝読して、私は非常に不思議な思いにとらわれました。
だって、そうでしょう。
わずか1~2万円のPCのCDドライブが何十万円もするような(ものによっては100万円を超えるような)高級CDプレーヤーと比べて、データの読み取りに関しては全く差がないことを証明してくれているのです。
「リッピングの優位性を主張する都市伝説」が消え去ったとしても、両者の関係は漸くにしてフィフティフィフティになっただけです。
そして、フィフティフィフティならば、価格面を比較して迷うことなくPCオーディオを選ぶのが普通の反応かと思うのですが、その方は迷うことなく数十万円もするCDプレーヤーを選ばれるというので、何とも言えず不思議な思いを抱いたわけです。
もちろん、オーディオのような趣味の世界では、PCのような無骨なものを持ち込むことは我慢できない人がいることも承知しています。それに、CDプレーヤーはデータの読み取りだけでなく、DA変換以降の部分においてもきちんと音作りがされているという点で安心感があることも事実です。それ故にフィフティフィフティならCDプレーヤーを選ぶ人がいても当然ですし、その事をとやかく言う気はありません。
しかし、私のようにフィフティフィフティならリッピングを選ぶ人がいてもこれまた何の不思議もありませんし、そう思う人がこれからも増えていくだろうなとは思います。
私の見るところ、再生系における主役はCDのようなパッケージソフトからファイルへと移行していく流れは止めようがないように見えます。
もちろん、その事の是非はここでは問いません。ただ、今の流れを事実として述べただけです。
その流れをふまえれば、オーディオの世界でCDというパッケージソフトが生き残ろうと思えば、「CDプレーヤーがリッピングに対して遜色ない性能を持っている」ことを主張するだけでは不十分であり、逆に「CDプレーヤーの優位性」が主張できなければいけません。
つまり、「CDはPCでリッピングすればデータが正確に拾い出せるが、CDプレーヤーではそれが難しい。」という都市伝説を屠るだけでは不十分であり、逆にCDプレーヤーのリッピングに対する優位性を証明する必要があります。
この事は、アナログ再生の世界(LP)を考えれば簡単に理解できます。
ご存じのように、アナログ再生の世界はしぶとく生き残っています。
なぜかと言えば、再生においてアナログはデジタルに対して理論的にも聴感的にも優位性を主張できるからです。(より正確に言えば、デジタルとは全く違った音の世界を主張でき、その中でデジタルに対するアナログの優位性を理論的に信じることのできる余地が残っています。)
そして、優位性さえ主張できれば、どれほど手間がかかりお金がかかっても趣味の世界では生き残るスペースはあるのです。実際、しぶとく生き残っているどころか、最近は「復活」の気配すらあります。まあ、それが「趣味の世界」というものです。
しかし、CDプレーヤーはPCによるリッピングに対して理論的にも聴感的にも明確な優位性が主張できていません。都市伝説を振り払っても、漸くにして五分五分となっただけです。
五分五分では残念ながら趣味の世界では生き残れません。それもまた、「趣味の世界」というものです。
まとめ
と言うことで、「CDはPCでリッピングすればデータが正確に拾い出せるが、CDプレーヤーではそれが難しい。」というのは、完全な都市伝説として葬り去ってもいいでしょう。
しかし、逆説的な言い方になりますが、数十万円もする高級CDプレーヤーも数千円程度のPCのCDドライブもデータの読み取り能力に関しては全く同じなのですから、オーディオ的には安心してPCを使ったリッピングを行うことができます。
その時に気をつけるのは以下の2点です。
(1)リッピングに使うCDドライブに関してはあまり神経質になる必要はない。
(2)リッピングソフトに関して「iTunes」や「WMP」ではなくて、「EAC」のような定番ソフトを使う方が無難。
PCでリッピングするときも、よほど酷いドライブを使わない限りはデータの読み取りに関しては問題はないと言えます。ただし、リッピングソフトに関しては「EAC」のような定評のあるソフトを使う方が無難だと思います。私の比較検討では、ドライブの違いでファイルのバイナリが一致しないことはありませんでしたが、リッピングソフトによっては大きな違いが出ました。
また、聞き比べでも、ドライブの違いで音質が変わることはないと言ってもいいと思いますが、リッピングソフトによる違いはかなり大きかったです。
よって、PCオーディオに取り組まれるときは、リッピングソフトに関しては十分な配慮を払うべきだと言えます。
ユングさん
ちゃんと見て下さっていたんですね。
「CDからデジタルデータをリッピングすることのメリット」の注意書きは拝見していたのですが、こうしてわざわざ書いていただいて有難うございました。
感じ方や判断は人それぞれですので、ま、好きなようにしたらいいんだと思います。それが趣味というものですから。
高価なCDトラポには縁がないので、私もさっぱりなのですが、ちょっと聴いてみたくなったかもしれませんね(笑)。
>ちゃんと見て下さっていたんですね。
勿論です!!
こうして多くの方のいろいろな取り組みで、オカルトの部分とそうでない部分がクリアになることはPCオーディオにとっては非常に大切なことだと思います。
私自身も、一連の都市伝説を取り上げることで、問題の本質が伝導ノイズと放射ノイズをいかにアナログ系に持ち込まないかにあることがだんだんと分かってきました。
リッピングに関わる問題も、事の本質がクリアになったのはjuubeeさんの功績は大だと思います。
あぁ、それでもノイズ対策という標的ははっきりしたものの、今度はその対象の手強さに呆然としています。
1が分かって喜んだら、その向こうに10の課題が立ちふさがっていたことに気づくというのは、どの世界でも同じ事のようです。
mknと申します。
「伝導ノイズと放射ノイズをいかにアナログ系に持ち込まないか」は全くそのとおりと思います。また別のところで確か「LP内周部で歪みが生じるのはこれはもう仕方がない」という記事をお書きになっていたとも思います。私の経験では片面が20数分を超えたLPでカッティングレベルが高いと新品の交換針を使わない限りどう調節してもだめで(KENWOOD,KP-1100)我が意を得たりと思ったものです。
そのためどうして「再生においてアナログはデジタルに対して理論的にも聴感的にも優位性を主張できる」おっしゃるのがちょっとよくわからないのです。本筋から逸れたコメントで申し訳ありませんがそのようなことを感じました。
>私の経験では片面が20数分を超えたLPでカッティングレベルが高いと新品の交換針を使わない限りどう調節してもだめで(KENWOOD,KP-1100)我が意を得たりと思ったものです。
そのためどうして「再生においてアナログはデジタルに対して理論的にも聴感的にも優位性を主張できる」おっしゃるのがちょっとよくわからないのです。
「そう言う手間」を使ってでも、とことんやってみたいというのが「趣味」の世界なのでしょうね。そして、そこまでやればデジタルには負けないぞと踏ん張れる根拠があると言うことなのでしょう。
そして、聴覚的にはそう言うとことんまで突き詰めたアナログの再生音は言うに言われぬ魅力があることは事実です。それは、認めざるを得ないと思います。
しかし、私はそんな面倒なことは絶対にやりたくないです。(^^;
そして、できうるならば、PCオーディオの世界で今までのデジタルの限界を突き抜けた、ある意味での「アナログ的な音」が実現できたらと思っています。
かといって、一本10万円のUSBケーブルなんて言う世界にははまりこまずに、誰もが取り組める範囲でそう言う世界を実現したいという「大それた夢」を持ってます。
Akiと申します。
ユングさんの御教示でE-MU0404USBとWave File Playerですきな曲を聴いています。
感謝です。
このスレットでお聞きしたいと思ったのですがファーストインプレッションでの「Roland UA-30」インターフェイスをそれまでお使いのCDプレーアのSPDIFに接続されての比較は如何だったのでしょうか?すでに語っておられましたら失礼。