BEHRINGER 「DEQ2496」の新しい使い道~バイアンプ駆動におけるゲインの調整

バイアンプ駆動

あまり腹は立ててはいけない・・・と、改めて思いました。
こういうサイトをやっていると、結構ねちねちとしたメールをもらいます。最近もおおむねこんな内容のメールをいただきました。

「あなたのプアなシステム構成には同情を禁じ得ないが・・・その中でも一番やってはいけないのは異なったメーカーのパワーアンプを使ってバイアンプ駆動させている事だ。ご存じないようなので教えておくが、パワーアンプというのはそれぞれにゲインが異なるので、そんな状態でバイアンプ駆動させればとんでもないバランスで鳴っているはずである。」
ですから、そんなひどいシステムで音質評価をしているなんて噴飯ものだ・・・と言うような内容でした。

正直言って、やれやれ・・・という感じです。
おそらくこのメールを送りつけてきた方はまだお若いんだと思います。なぜならば、最近のパワーアンプには何故かボリュームが消えてしまっているので、若い方にとってパワーアンプというのはボリュームがついていないものらしいのです。
私は浅学非才の身ですからそれほど偉そうな物言いは控えたいとは思いますが、とりあえずは30年近くはオーディオをやっているので、アンプのゲインがそれぞれの機種で異なっていることくらいは教えていただかなくても知っています。そして、そんなゲインが異なった状態でバイアンプ駆動すれば帯域バランスが崩れてとんでもないことになることも、・・・知っています。

古い方ならご存じだと思うのですが、昔のパワーアンプには必ずボリュームがついていました。
私が使っているアキュフェーズ(P-300L)やヤマハ(MX-1)のパワーアンプにもボリュームがついています。(なんと言っても古いですから・・・^^;)

アキュフェーズ(P-300L)
p-300l1

ヤマハ(MX-1)
mx-1

パワーアンプ一台で駆動するときはボリュームをマックスにするのが定石ですが、リスニング環境によっては音量をかなり下げないといけない場合があります。そう言うときにパワーアンプのボリュームを最大にするとプリアンプ側でかなり音量を絞らないといけない場合(8時くらい)があります。プリアンプに搭載されているボリュームには優秀なものもありますが、そこまでの性能がない場合は、パワーアンプの側でボリュームを下げて、替わりにプリアンプ側のボリュームが12時くらいになるようにした方が音質的には有利な場合があります。
そう言う使いこなしのために、昔のパワーアンプにはボリュームがついていたのです。

確かにオーディオには定石といえるようなノウハウはたくさんあります。しかし、定石通りシステムをくみ上げ、使いこなすだけで十全な音質が獲得できるほどこの世界は底が浅くありません。大切なことは定石から外れていても、最終的には自分の耳を信じて「使いこなす」事です。

それは、バイアンプ駆動にしても同じです。
確かに同じメーカーの同じ機種を使えば誰でも簡単にバイアンプ駆動ができます。もちろんそれで満足できるならば、そして、簡単に同じ機種のパワーアンプを買い足せるほどの経済力があるのならば(貧乏人のひがみ^^;)それでいいかもしれません。
しかし、一口にバイアンプ駆動と言っても、そこには余っているパワーアンプを活用して少しでも上の世界を目指したいと言う貧乏オーディオ的な発想もあれば、より積極的に異なったパワーアンプを投入することで同一機種によるバイアンプ駆動では実現できない世界を目指す志の高い発想もあるのです。
同じメーカーの同じ機種を組み合わせてそれで事たれりと言うほど底の浅い世界ではないのです。

私の場合は当然のことながら「貧乏オーディオ的な発想」からスタートしているので、それほど偉そうなことは言えないのですが、それでも多少の試行錯誤は続けてきました。
きっかけは「貧乏オーディオ的な発想」ですから、最初はゲインの高い「MX-1」のボリュームを絞るという最もお金のかからない方法で調整をしていました。しかし、「MX-1」のボリュームは見るからにプアなので、最終的には少しばかりのお金を投下してパッシブアッテネーターを導入しました。
しかし、そんな「貧乏オーディオ的な発想」からスタートしたバイアンプ駆動であっても、アキュフェーズ(P-300L)一台で駆動するよりは遙かに躍動感にあふれた世界を実現してくれています。

デジタル領域でのゲイン調整

と言うことで、話がここで終わっていれば「何を馬鹿なことを言ってるんだ!」と無視したことでしょう。
しかし、上記のメールには続きがありまして、その内容はおおむね以下の通りでした。

「あなたはBEHRINGERのDEQ2496という安物のイコライザを褒めているが、おそらくアンプのゲインの違いをイコライジングで吸収したので大場に音質が改善されたように思ったのだろう。言ってみれば割れ鍋に綴じ蓋みたいなものだ。」
そして、これに続けて実用に耐えるイコライザは定価80万円の○○だけだと続きます。

BEHRINGER(DEQ2496)
BEHRINGER_DEQ2496

このメールの送り主はどこかのオーディオショップの店員さんかもしれませんね(^^vこの人は何故か定価80万円の○○のイコライザを褒めますので・・・。

まあ、それはさておき、「アンプのゲインの違いをイコライジングで吸収したので大場に音質が改善されたように思った」という下りにはピントくるものがありました。

なるほど、メールの送り主は「DEQ2496」をけなすつもりでそんなことを書いたのでしょうが、私にとっては「DEQ2496」をそんな目的でも使えるんだ!と教えられたような気がしました。

実は、このメールをもらった時期はパワーアンプを入れ替えた時期に当たっていました。
今までの「アキュフェーズ(P-300L)+ヤマハ(MX-1)」と言うコンビから「ローテル(RB-1592 TM2)+アキュフェーズ(P-300L)」に変更していました。
そして、このローテルとアキュフェーズは出力は倍ほど違うのですがゲインはほとんど同じようなのです。

ローテル(RB-1592 TM2)
Rotel

ローテルの方は最新のパワーアンプですからボリュームはついていません、いつもマックスです。(--v
ですから、アキュフェーズの方もマックスにしてバイアンプ駆動します。それほど帯域バランスは崩れていません。

試しに、今度はローテル(RB-1592 TM2)一台でスピーカーを駆動します。先ほどのバイアンプ駆動とほとんど音調は変わりませんが、微妙に違うと言えば違います。

そこで、今度はローテル(RB-1592 TM2)の側にアッテネーターを挟み込んで音量調整しながらバイアンプ駆動させてみます。ローテル(RB-1592 TM2)はかなり優秀なアンプなので単独で駆動しても十分な音質なのですが、こうしてバイアンプ駆動してみると違いははっきりと存在します。
ローテル(RB-1592 TM2)による単独駆動とバイアンプ駆動の間に顕著な差がなければ、システムのシンプル化のためにバイアンプ駆動はやめようと思っていたのですが、ローテル(RB-1592 TM2)ほどの駆動力を持ってしてもバイアンプ駆動のメリットは大きいと言わざるを得ませんでした。

ただ、アッテネーターによる調整が、いまい一つ「ここだ!」というポイントが定まらずに苦労していました。もしかしたら、もう少し性能の高いアッテネーターを導入しないといけないかもしれない・・・と思い始めたときに先のメールをもらったわけです。
そして、結果として「あまり腹は立ててはいけない」と改めて思った次第なのです。

早速、アッテネーターはシステムから取り外して、「DEQ2496」で「AUTO EQ(自動補正)」をしてみました。そして、「MySpeaker」というソフトを使って測定しながら微調整をしました。
結論から言えばドンピシャリです。

アッテネーターによる調整ではどうしてもアナログ領域での減衰になるので、ゲインは揃っているようなのですが、何故か「大切なもの」がするりと抜け落ちたような感覚が払拭できなかったのです。しかし、「DEQ2496」を使った調整ならば全てはデジタル領域での話になるので、アッテネーターによる調整で感じたようなマイナス面はほとんど感じませんでした。

ただし、今回はアンプのゲインがほとんど同じだったので上手くいったのかもしれないと言うことは、過大評価にならないように付け加えておく必要があります。片方がローテル(RB-1592 TM2)のようにハイパワーアンプで、他方が真空管アンプ(三極管シングル)というような組み合わせまでカバーできるかと言えばそれは疑問です。(ただし、やってみると意外と上手くいきそうな気もします)

余談です

最近、ハイエンドオーディオメーカーのLINNから「EXAKTシステム」なるものがリリースされました。定価800万円のこのシステムが我が家にやってくることは金輪際ないのですが、このシステムの提案の中でとても興味をひくものがありました。

EXAKTシステム
EXAKT

それは、スピーカーユニットの個体差をデジタル領域で補正しているというものです。そして、リスニングルームがもっている音響特性はシステムの方で補正するというのは当たり前のこととして取り込まれています。
この事から見えてくることはデジタル領域で音をイコライジングすることの重要性と可能性です。

LINNが言うように、どれほど厳密に生産管理をしても左右のスピーカーユニットの物理特性を完全に揃えるなどと言うことは絶対に不可能です。しかし、「EXAKTシステム」のように音の出口の直前まで音楽データをデジタルで送り込み、その直前でユニットの物理特性の違いを補正ずるデータを入れ込めば、その不可能なことが可能となるのです。今までは仕方がないとあきらめていた領域にも、デジタル領域ならば踏み込めるようになってきていると言うことです。

仮想的であっても、左右のスピーカーユニットの物理特性が完璧に揃った状態で再生される音のすばらしさは何となく想像ができます。実際に耳にできる機会があれば是非とも出張っていきたいものです。

もしかしたら、私たちは音楽データをデジタル化した事によるメリットを本当の意味で享受できるようになる入り口に、漸くにして到達したのかもしれません。


9 comments for “BEHRINGER 「DEQ2496」の新しい使い道~バイアンプ駆動におけるゲインの調整

  1. Dr335
    2014年6月16日 at 9:00 AM

    私の車のオーディオはわずか数万円のささやかなものですが,このAUTO EQがついていて,高音質ではありませんが,オーケストラもそれなりのバランスで鳴ります.カーオーディオやAVアンプの世界では,随分前からあたりまえに行われていたことですね.家のシステムはどれだけ帯域バランスがくずれているのか心配になります.いわゆるピュアオーディオの「ピュア」にこだわりすぎると,山の頂上にいつまでたっても近づけず,かえってDSPを駆使したAVアンプのほうが,近道なのかもしれません.

  2. 2014年6月17日 at 11:59 AM

    こんにちは。

    DEQ2496に関する参考情報ですが、イコライザ処理はAnalog Devices社のSharc DSPを使用しています。 世の中のプロ用機器を始めてとしてほとんどのデジタル処理用DSPには型番やそれに応じた処理能力の違いはありますが僅か数千円程度のこのDSPが使用されています。定価80万?のイコライザも同様です。もちろんイコライザ自体はソフトウエアなので、メーカーが開発することも可能ですが基本は開発キットがAnalog Devices社から供給されていますのでその演算処理が決定的に異なるということはありません。音質の観点からは当然製品コストに応じた対応が細部では行われていると思いますが、、、

    LINNのEXAKTはその発想がデジタル時代のオーディオのあり方だと納得しています。ただ、その価格は生産原価から大きく逸脱してしまっており、あまり一般的とはなりそうにもないのが残念です。また、デジタルインターフェースも同社独自の規格で互換性がないのも納得性に欠けますね。

    デジタルファイルをベースとしたオーディオはCPUやDSPというテクノロジーのサポートによってより進化できると思っています。ただ、愛好家がいろいろ工夫と実験によって向上させる余地は残しておいて欲しいですね。新しい仕掛けにトライしつつ悪戦苦闘するのも趣味としてのひとつの楽しみですから。

    • 2014年6月17日 at 8:23 PM

      貴重な情報ありがとうございます。
      ただ、最後まで言葉を濁していたのですが、私がいただいたメールの主が「これしかない!」と推奨していたイコライザは皆さんが思い描いているであろうメーカーのものではありません。
      まるでねらいすましたように=^^;、そのメーカーが定価80万円でヴァージョンアップしたイコライザを発売したので、私の方が驚いてしまいました。

      そのメーカーの・・・ええい、面倒くさい!!、アキュフェーズのイコライザはアナログ入力、アナログ出力にも力を傾注していますから、DEQ2496と同列には論じられません。もちろん、完全にデジタル領域の中だけで使用することもできるのですが、昔ながらにプリとパワーの間にはさみこんで使用するという「昭和の香り」のするような使い方も視野に入っています。
      DEQ2496もやろうと思えば同じ使い方ができますが、そんなことをすれば違いは歴然です。基本的にDEQ2496でそんな使い方をしてはいけませんよね。(^^v

      でも、入り口から出口まで全てデジタル領域の中で完結すれば必要なのは物量ではなくて集積度のはずです。そして、物量は価格に比例(二乗?)しますが、集積度と価格の間にはほとんど何の関連もありません。
      ですから、デジタル領域の中で話がすんでしまう機器に法外な価格がつくのはとうてい納得がいきません。(どうでもいいことですが、私はDAコンバーターは基本的にアナログ機器だと思っています。デジタル領域の数値だけで音質は決まりません)
      そして、そう言う思いが間違っていないことがごんざえもんさんからの情報で補強されたように思います。

      それから、LINNのEXAKTに関しては、「その価格は生産原価から大きく逸脱してしまっており」という指摘は全く同感です。ただし、かなりの物量は投下しているですのでお安くはならないことは分かりますが、それでも800万円はないですね。
      でも、DSの時もそうですが、これからのオーディオの進むべき方向性をしめしたと言う点ではリスペクトには値すると思っています。
      是非とも、機会を見つけて実際の音は聞いてみたいと強く思ってはいます。

  3. old boy
    2014年6月18日 at 8:11 AM

    超poor audioマニアですが、yungさんのサイトを参考にしています。
    ようやくCubox4-muboxの環境が整ったところで、このバイアンプ駆動を知りました。今までプリメインアンプ(PMA2000)のプリ出力を真空管アンプ(TRV35SE)にインプットして、バイワイヤリングでスピーカーに繋いでいました。
    それでPM2000へSPの低音をつなぎ替えるだけで簡単にバイアンプ駆動となり、TRV35SEのボリュームで中高音を調整して聞いてみたところ、一段といい音になりました。
    ということで次はこのDEQ2496に挑戦と言うことになりますが、70を超えてもまだまだやることが尽きず、うれしくなります。

    • 2014年6月18日 at 9:24 PM

      >PM2000へSPの低音をつなぎ替えるだけで簡単にバイアンプ駆動となり、TRV35SEのボリュームで中高音を調整して聞いてみたところ、一段といい音になりました。

      バイワイアリングは必ずしもメリットばかりではないので、最近はシングルワイヤのスピーカーも復権してきていますね。しかし、バイアンプ駆動に関してはほぼ間違いなく音質の向上が望めると思います。ただし、使いこなしはそれなりに難しくなりますが、それもまた楽しからずや・・・ですね。

      • old boy
        2014年6月19日 at 7:35 AM

        スピーカーのバイアンプ駆動で明らかに音場が広がり、個々の音もいっそうくっきりとなり、この程度のシステムでもなかなか良い音だとと満足しています。今までyungさんの情報をもとにCuboxi4-Hifaceevo-DAC1000のデジタル入力系を整備してきましたが、これからはアンプ-スピーカーのアナログ出力系にも興味がでてきました。ありがとうございます。

  4. Fuji
    2014年6月18日 at 4:50 PM

    ユング様、皆様、ご無沙汰しております。

    >昔ながらにプリとパワーの間にはさみこんで使用するという「昭和の香り」のするような使い方も視野に入っています。

    今の時代に、この様な使い方をする人がいるのでしょうか。いるとすれば、アナログレコードを聴いている方々だとは思うのですが、せっかくのアナログ信号を一度デジタル変換し、再度アナログに戻してでも聴きたいと言うのは、イコライズする事によるメリットの方が余り有ると言う事なのでしょうか。又、この接続のままでイコライザーの補正無しの場合であっても、音質の劣化は一切無いのでしょうか。

    >アキュフェーズのイコライザはアナログ入力、アナログ出力にも力を傾注していますから、DEQ2496と同列には論じられません。

    DG-58の事だと思うのですが、ADコンバーターとDAコンバーターを搭載せず、純粋にデジタル領域のみで使用する機器を市場に出せば、コストの高いアナログ回路が不要になり価格がかなり下げられるし、よほどスッキリするのではないでしょうか。これはメーカー側にお願する事だと思いますが、アキュフェーズの事ですから、電源、基板、部品選定、筐体など、ものづくりのノウハウを駆使すれば、オーデイオファイルを満足させる製品がすぐに出来ると思うのですが。

    • 2014年6月18日 at 9:18 PM

      >今の時代に、この様な使い方をする人がいるのでしょうか。

      「オーディオ・アクセサリ誌」の最新号で角田郁雄氏がDG-58のレポートを掲載していますが、その中で「デジタル接続も可能だが、私のようにプリアンプとパワーアンプ間に設置してのアナログ接続も可能。」と述べていますね。昭和レトロいまだに健在です。

      >せっかくのアナログ信号を一度デジタル変換し、再度アナログに戻してでも聴きたいと言うのは、イコライズする事によるメリットの方が余り有ると言う事なのでしょうか。

      私には何とも判断しかねます。しかし、そんな使い方は個人的には絶対にしたくないです。それだけは断言できます。

      >純粋にデジタル領域のみで使用する機器を市場に出せば、コストの高いアナログ回路が不要になり価格がかなり下げられるし、よほどスッキリするのではないでしょうか。

      確かにその通りですが、そうなると実売価格20K円を切るDEQ2496みたいな機器との勝負になります。それはどう考えてもアキュフェーズの戦略とは相容れませんから、おそらく最後まで昭和レトロな使い方ができる仕様は外さないと思います。私は期待はしていません。

  5. きゅう
    2014年6月22日 at 9:21 AM

    始めまして、きゅうと申します
    いつも素晴らしい情報をありがとうございます
    話題のDG-58のカタログ見て見ましたが、ADコンバーターはよくわかりませんが、DAコンバーターはES9018が片ch1つのデュアルモノ?に2段のOPアンプ出力で、DSPはADのSharc、AD/DA基盤のグランドアイソレーションもされていない様ですし、使われているコンデンサーも通常クラスのもので、とてもこの価格になるとは、考えにくい構成に思いますね
    まあ、最後は「弊社特有の音のチューニング」というオカルト的な部分があるので・・(笑)
    これからも、情報を期待しています

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