アナログの復活はあるのか(3)

アナログ再生に何を求めるのか

2015年の大阪でのハイエンドショーあたりからアナログ再生への転換は見え始めていました。しかし、そこで鳴っていた音はどれもこれも感心できないものでした。
唯一の例外は「ラックスマン」のブースで、そこだけは見事な音が鳴っていました。

大阪ハイエンドオーディオショー 2015の印象など(1)

その時に感じたことを簡潔に箇条書きにしておくと以下のようになります。

  1. 嘘の情報と誤った知識でデジタルを貶しているだけではアナログの復活にはつながらない。
  2. デジタルと同じ土俵で勝負をしてもアナログは分が悪い。
  3. アナログ再生が成功するためには、アナログ再生の何たるかを完全に熟知している事が大切。

この箇条書きに添って一つずつ詳述していきたいと思います。

嘘の情報と誤った知識でデジタルを貶しているだけではアナログの復活にはつながらない。

2015年のイベントではあちこちで酷い話を聞きました。古い話ですが大切なことだと思うのでもう一度簡単に繰り返しておきます。

「デジタル録音はデータを切り貼りしまくっているので音楽に勢いがなくなるが、アナログでは切り貼りできない一発勝負になるので原理的に優れている」

言うまでもないことですが、アナログ録音だってその多くは切り貼りしながら音源を仕上げています。
切り貼りするかどうかは録音のフォーマットに由来する話ではなくて、録音する側のポリシーに属する話です。

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「デジタルは22KHzまでしか収録されいないが、アナログだと40KHzまで収められている」

「デジタルは22KHzまでしか収録されいない」というのは実に面妖な話なので、デモが終わってから本人に「CDが再生できる上限は20kHzですよね」と確認したのですが、断固として「22kHz」と言い張っていました。
CDの規格は「44.1KHz 16bit」なので、再生周波数の上限は「サンプリング周波数÷2」という誤った知識で「22kHz」だと勘違いしたのでしょうか。

しかし、折り返し歪みを避けるためにハイカットフィルターで20kHzより上の領域はカットしているなどと言う専門知識はなくても、常識として「20kHz」までと言うことくらいは知っておいてほしいと思ったものです。
ましてや、その「無知」の上塗りとして、「アナログだと40KHzまで収められている」等と大嘘を平気でつくのですから、こうなるとアンタ、ほとんど詐欺商法みたいなものですよと言いたくなったものです。

このアナログレコードの再生周波数の上限についてはこちらで詳しく述べていますので興味と暇のある方はご覧ください。

  1. CD規格って不十分なの?(2)~アナログは20kHzを超えるのか?
  2. CD規格って不十分なの?(3)~アナログは20kHzを超えるのか?
  3. CD規格って不十分なの?(4)~アナログは20kHzを超えるのか?

アナログ擁護派の方から随分と疑問点の指摘していただいたのですが、結論としてはマスターテープには最初から20kHzを超えるような情報は基本的には含まれていないことと、アナログの再生機構では正確に拾い出せる情報は15kHzあたりまでだと言うことは共通認識できたと思います。

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デジタル全盛の時代にあって、そこに風穴をあけて何とかアナログ復活のきっかけをつかみたいとの思いは分かります。
そのためには、アナログのデジタルに対する優位性を言い立てたくもなるでしょう。

しかし、その思いが余って不正確な情報、または明らかに虚偽の情報を流すことで優位性を言い立ててどうするんですか?
それは許されないだけでなく、結果として漸く生まれつつあるアナログ復活の流れそのものを潰してしまうことにつながってしまのですよ、と言いたくなったものです。

さすがに、あれから2年の歳月が経って、今回のイベントで「デジタルは20kHz迄しか再生できないがアナログだと云々」みたいな話はどこからも出ませんでした。
その意味では一歩前進したとは言えそうです。

しかし、それでも一部のブースでは「この低域の押し出しはデジタルでは不可能です」とか、「この音場表現はアナログならではの再生です」などと言う売り文句が聞こえてきました。
実に持って馬鹿な話です。

アナログ再生のデモで本当にいい音が鳴っているならば、黙っていればいいのです。分かる奴にはそれで充分ですし、それで分からない奴には何を言っても無駄です。
もしも、感心するような音が鳴っていなければ、それもまた黙っていればいいのです。嘘で事実を上塗りするような恥をさらす前にアナログ再生の腕を磨くことです。

デジタルと同じ土俵で勝負をしてもアナログは分が悪い。

アナログだ、デジタルだと言い合っても、それは結局は音の入り口に関わるだけのことです。
アナログであれ、デジタルであれ、アンプに送り込まれてしまえば、後は全てアナログの世界です。最後はスピーカーの振動板を動かして空気を振動させなければ「音」にはならないのです。

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そうなると、結局はマスターテープに収められた情報をどれほど正確にアンプに送り込めるかの勝負になります。
そうなると問題は2つあります。

一つはマスターテープの情報を刻み込むソフトとしてアナログとデジタルではどちらが正確性を担保できるかです。
もっと有り体に言えば、「1」と「0」のデジタルデータとして情報を収納するのと、塩化ビニルを引っ掻いて溝を刻み込むのとではどちらが正確性が担保できるかです。
二つめは、そうやって情報を収納した、もしくは刻み込まれたソフトからどれだけ正確にその情報を引き出せるかです。

1つめの問題に関しては、理論的にはアナログには勝ち目はありません。アナログという機構が正確に刻み込める周波数の上限は概ね15kHzです。
それに対して、デジタルであればサンプリング定理によってCD規格であれば「20kHz」までの情報を完全な正確性でおさめることが可能です。

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ただし、マスターテープに収められている音がどのようなものかは一般ユーザーは知る術はありませんから、現実問題としてはアナログであれでデジタルであれ、ソフトのデータをどれほど正確に拾い出すことが出来るかの勝負になるでしょう。

ただし、こちらの方もどう考えてもデジタルの方が有利です。
もちろん、アナログがデジタルと勝負して肩を並べること事は不可能ではありません。
不可能ではありませんが大変な困難が伴います。

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SONY PS-HX500 アナログからDSDへのネイティブ変換に対応したA/Dコンバーターを内蔵、実売価格50000円を切る

今回のイベントでもっともいい経験になったのは、その不可能とも思えることの限界にまで挑戦したシステムの音が聞けたことです。
ターンテーブルだけで1000万円超え、トーンアームが200万円近く、カートリッジも100万円弱、そしてフォノイコライザーが500万円越えのシステムでアナログレコードの原盤となるラッカー盤を再生してくれたのです。

凄いものです!!
そして、非常に素晴らしい音がしていました。
見事なものでした。

しかし、その音の方向性は良く整備されたPCオーディオのシステムが出す音とそっくりなのです。

これは2015年のハインド・オーディオショーでも感じたことなのですが、今回のイベントでもそのイメージは変わることはありませんでした。
どうやら、アナログのシステムで物量を投入すればするほど、音の方向性はよく整備されたPCオーディオの世界と似通ってくるのです。
それはひっくり返して言うと、PCオーディオを突き詰めていけば行くほど、その音の方向性もアナログの世界に似通ってくるのです。

これは、おそらく「登山」にたとえれば分かりやすいのかもしれません。
「アナログ隊」も「デジタル隊」もともに世界最高峰のチョモランマの頂きを目指しています、しかし、選択したルートは異なりました、みたいな話なのです。

ノーマルルート

「デジタル隊」が選んだのは、ローツェフェイスをよじ登ってサウスコルから頂きを目指すノーマルルートです。
それに対して「アナログ隊」が選んだルートは南西壁をよじ登って頂上を目指す極めて困難なものなのです。

チョモランマ 南西壁 ここをよじ登って山頂にたった奴がいるなんて信じがたい

日本人でこの南西壁を登攀して頂に立ったのは1993年の群馬山岳連盟隊だけです。あれは、その上に「冬季」という「冠」までついた世界的偉業でした。(チョモランマ南西壁冬季初登頂)

しかし、それほど困難なルートを選んだとして、たどり着くのはどちらも同じ山の頂なのです。

そうなると、ここで一つの選択が迫られます。
「頂」に立つことが目的なのか、それとも「未踏の領域を切り開く」事が目的なのかという選択です。

もしも、シンプルに「頂」に立つことが目的ならば迷わずノーマルルートを選ぶべきです。
しかし、最先端のアルピニストがより困難なルートを切り開くことに「意義」を見いだしているように、アナログというルートに「意義」を見いだすならば、それはそれで立派なものです。

聞くところによると、昨今のチョモランマ登山は、お金と暇とそれなりの気力と体力があればそれほど困難ではないようです。
シェルパによって難しい場所には全てロープが張られ、テントから食料まで全てがシェルパが荷揚げをしてくれます。7000メートルを超えれば酸素ボンボをシェルパが担いでくれて、お客様の登山者はそこからタコの足のように延びた管で酸素を吸って頂きを目指します。
これを登山と言えるのかどうかは分かりませんが、それでもたどり着いた頂は疑いもなく世界最高峰チョモランマの頂であることには変わりはありません。

そして、この簡便さがチョモランマ登山を一つのビジネスとして成り立たせているのです。そして、こういうビジネスモデルは南西壁をよじ登っていては成り立たないのです。
つまり、アナログはデジタルと同じ土俵で勝負できないわけではないのですが(頂に立てないわけではない)、ビジネスとして成り立つかどうかを考えたときには、その勝負はどう考えても分が悪いのです。

もちろん、何が何でも南西壁をよじ登ってチョモランマの山頂に立ちたいという「一部富裕層」を相手すれば、それはそれなりにビジネスとして成り立るかもしれないのですが、それがオーディオにおけるアナログの復活には結びつかないでしょう。

ならばどうするのか?
それはデジタルとは違う山の頂を目指すべきなのです。アナログが復活するにはそれしか方法はないのです。

それが、「アナログ再生が成功するためには、アナログ再生の何たるかを完全に熟知している事が大切」という事につながるのです。


6件のコメント

  1. 私の意見(偏見?)に対する回答とも言えるエントリーモデルのプレーヤーを
    教えていただき有難うございます。

    この辺りのプレーヤーとElacやDali辺りのスピーカーを組み合わせればオーディオに
    お金を余り掛けることが出来ない人でも結構いい音で音楽が楽しめるでしょうね。

  2. 結論から申し上げますとアナログが復活する(70年代末から80年代初頭のような状態になる)事は無いと思います。

    私としてはSACDやブルーレイよりもレコードの方が市場規模は大きいと常々感じていたので、それに気づいた企業が利益確保のためアナログ機器の開発にシフトしてきたのではないかと考えています。
    もし、巷で言われているアナログの復活が、20世紀の技術のコピーでしかないのなら、一過性のブームに終わるでしょう。

    ただ、一度挫折した技術である光学カートリッジの復活や、3Dプリンター技術を応用したプレス機の開発などの話をちらほら聞きますので、そういった新技術を取り込むことができればもしかしたらとも思います。

    それでも、デジタル録音されたものをわざわざアナログディスクで聞く意義を私は見出せません。去年の大阪ハイエンドオーディオショーに行って、つくづくそう思いました。

    1. それでも、デジタル録音されたものをわざわざアナログディスクで聞く意義を私は見出せません。

      これはそうですね。
      今一番ほしいのは60年代から70年代のアコースティック楽器によって録音されたポップス系のレコードです。
      本線のクラシック音楽に関してはデジタルでいいかなと言う気はしています。

      ただし、この「60年代から70年代のアコースティック楽器によって録音されたポップス系」の音楽というのは、どうやらかなりの需要があるようなのです。
      とある集まりで、一度はアナログのレコードを全て捨てた人が、この2年間で1000枚程度のレコードを購入したと語っていました。すると、私も最近中古レコード屋に顔を出すようになったんですよと相づちを打つ人がいたりしたので、すっかり驚かされてしまいました。
      アンケートの方は投票数はまだ100には達しませんが、想像したよりははるかにたくさんの人がアナログの再生システムを残していることに驚かされました。(おそらく10%前後かと思っていました。)

      当然の事ながら、アナログ全盛時代のようにはならないのは当然なのですが、ある程度のポジションは占めるようにはなるのではないでしょうか。
      ただし、それはハードよりはソフトの供給の方が左右すると思います。

      1. 8月14日、梅田阪神百貨店で開催されていた中古レコード&CD市に行ってきました。

        中古レコード市と言えば、中高年のおっさん連中がジャズや洋楽コーナーに群がっているのが相場でしたが、今回は各コーナーにまんべんなく人が散らばっていました。
        やはり私を含め、ほとんどの方が中高年でしたが・・・
        女性の方も結構いらっしゃいましたね。若い人は、ちらほら程度でした。
        ですからレコードそのものの人気が高まっていると言うのも、あながち与太話ではなさそうです。
        そういえば確か先月、BBCもニュースでレコードの話題を取り上げていました。
        若い女の子達が素手でレコード盤をつかんでいる映像を見て’やめててくれ~’と心の中で叫んでしまったのを思い出しました。

        それにしても、相変わらずカラヤンやショルティ、セルの値段は安く朝比奈さんは高かったですね・・・

        中学の頃に初めてレコードを買って以来、30年以上に渡り細々と肩身の狭い思いをしながらアナログを続けてきた身としては、アナログの復権(音楽を聴くための一つの方法論として認知される事)は喜ばしい限りです。

  3. 今のアナログ復活の動きは非常に興味深いですが、聞く処によるとLPレコードを知らなかった若い世代が物としてのアルバム(その大きさとデザイン)に新鮮さを感じアナログを楽しんでいるようですね。

    行きつけのカフェでも、若いオーナーがテクニクスの中古プレーヤーと知人から貰った古いアルテックのフルレンジスピーカー、知人手作りの真空管アンプで、1970年台のヨーロッパロックばかり流しています。収集したアルバムを仕事をしながら楽しむという感じで音質がどうしたこうしたという拘りはありません。

    中古レコードショップで聞いた話ではヨーロッパでもアナログが復活してるそうですが、同じような状況なんでしょうか?

    私もLPレコードとプレーヤーを持っていましたが、アルバム20枚程度を残して全て処分しました。理由は簡単、マンションなので置き場所がありません。床が抜けるのも困るし(笑)。

    私のオーディオ感は前コラムの川島様とほぼ同じです。今のアナログ復活は十数年インターバルで起こるブームの再来と見ています。もちろん、どうやってお金を使うか困っている方は別世界ですよ。

    このような趣味嗜好の世界で起こる動きは、きっかけはメデアや供給サイドであっても最終的には需要サイドの動向(世代とライフスタイル)によると思いますが・・・

    1. > 中古レコードショップで聞いた話ではヨーロッパでもアナログが復活してるそうですが、同じような状況なんでしょうか?

      少なくとも英国ではある程度のブームになっているようで、デジタル出力付きの半携帯型プレイヤーが、£100(約1万5千円)以下、格安なのは£40ほどの値段で売られています。ソフト面でも、HMVなどの大型店では近年LPの棚が復活し、往年の名盤や新譜までレコードが売られていますよ。

      コアなオーディオファン間ではどのくらい話題になっているのかわかりませんが、現状では音質うんぬんよりは主にカッコつけの流行だと思われます。

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